みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

短歌

暗黒祭りの準備

* ことばなき骸の帰還御旗ふる男の腕がわずかに震るる もしやまだ花が咲いては切られゆくこの悔しみになまえを与う 水温む五月のみどり手配師がわれを慰む花もどきかな 真夜中の歯痛のなかで懐いだす星の彼方のささやきなどを 呼び声のなきままひとり残され…

異端審問

* 黄昏よなべものみなうつくしく斃れるばかり 長距離の選手たち みどりなるひびきをもってゆれる葉をちぎっては占うなにを あかときの列車のなかに押し込まる自殺志願のひとの横顔 花が咲いて 散るもの知らず故知らず ほらもうじき雨季来る 枯れる湖水 もは…

まくらことば

* あからひく皮膚の乾きよ寂滅の夜が明くのを待つ五月 茜差すきみのおもざし見蕩れてはいずれわかれの兆しも見ゆる 秋津島やまとの国の没落をしずかに嗤う求人広告 朝霜の消るさま見つむきみがまだ大人になり切れない時分 葦田鶴の啼く声ばかり密室にボール…

死はいずれ

* かげを掘る 道はくれないおれたちはまだ見ぬ花の意味を憶える 眠れ 眠れ 子供ら眠れ 日盛りに夏の予感を遠く見ている プラタナス愛の兆しに醒めながらわがゆく道に立つは春雨 祖母の死よ 遠く眠れる骨壺にわが指紋見つかりき 葡萄の実が爆発する夜 ふいに…

ヘンリー・ミラー全集の夜

* 狩り人のうちなる羊番をする少年の日のかげを妬まん 永久という一語のために死ぬなかれ、やがて来る陽のかげりのために わがための墓はあらずや幼な子の両手にあふる桔梗あるのみ いっぽんの麦残されて荒れ野あり わが加害 わが反逆 暴力をわれに授けし父…

yo-su-ga

www.youtube.com * 妹をかぞえるすべも見つからず陽だまりのなか帽子をなくす 谺する子供時代の口惜しさを書きためて猶わが詩篇ならず まぼろしの歌集がひとつ空へ帰す文学以後の暮らしのために 育つの樹の内部の夜よ雨ざかる丘のうえより見下ろす町 海に倦…

失墜の時間

* ふとおもう冷戦だけが温かい戦後に生きる戸惑いの眼 みな底の女がひとり読書する固茹で卵の戦後史などを ふりかえる子供のひとりいくつかの量子学など忘れてしまう 揚力のちがいのなかでまざまざとひきさかれたるわれの翅は 流体が墜落してる・青空が野性…

星からのわるい報せ

Mauvaises Nouvelles des étoiles * ヨナが啼く湖水のうえの月あかりいま語りたる出イスラエル 死がいまだ経験ならず機関手の手袋ひとつ星に盗らるる 朝来れば天体模型消えゆけり煙だらけの窓がささやく オリーヴの罐詰めひとつ破裂する銀河の果ての汐のか…

オンデマンド&電子書籍・販売中

いままで刊行した作品を以下にまとめます。一部無料のものや、試し読みができるのもありますので、気に入った方はどうか買ってやってください。 mitzho84.hatenablog.com mitzho84.hatenablog.com mitzho84.hatenablog.com mitzho84.hatenablog.com mitzho84…

夢の址地

* いまきみが擦った燐寸のせいでまた幾星霜の銀河は暮れる 水がまた滴りだしたキリストのまねごとのまま復活ならず マタタビの宙返りかな椅子を打つ家具職人の首の汗よ 鹿の死の歓び幾多かくすべく芭蕉の葉などかけて過ぎ去り 夢こそがほんとうなれば鹿の死…

月の光り

* 児戯すらも思想足り得ん雨の午后訪れたるを危むるまでは 撮影者不明の女ひとりおり素行調査の夢はふくらむ 逃げ水の輝く晌──繋船の窓にわれいる不在のために 苺月熟れる梅雨かなあじさいの花の盛りに埋もれるひと 梅の木のあふれる私恨道半ば斃るるままに…

映像機関説

* わたくしごとなればセロリ青しといいこれを䈭める暮らしの手帖 ゆく春に語るものなし倖せな大人でいたいという欲望よ 夢ならば天使の頭蓋抱えつつ燃ゆる七月藍く塗りたし 願いすらなく索漠のうえをゆく一言居士のような心臓 花月のみどりの化石 愁いとは…

被造物の夢

* ひとりのみはぐれて歩む道ならん逆さにゆらる空中ブランコ さみしいといえぬわが身の刹那すら春の空気が洗う午後かな くちぐせになりしなまえを忘れたく夜のむこうへ「さよならユカコ」 ビロードのようなまなざしひるがえる真昼の夢の足跡あって 横たわる…

発熱時代

* 発条の不在やひとりかくれんぼ発明以前の愛のまなざし 鏡との婚姻ぼくの手のひらが熱くなるなり ときめきテレパシー 花ひらく 蕚のなかをいま泳ぐ群小詩人と夢の諍い 繭眠る糸の一条われをまだ赦さないかのように搦んで なまえなくひとり不在の花撰ぶ学校…

虹(In rainbows)

わがうちに育ち来たりてまだ翅を震わせている夢を喰う虫 真夜中の廚に青く発ちのぼる妹未満のきみのあやかし 空がまだ未然形なるときをいまなだめすかして連用するか たそがれの檻のなかにて鳥影を飼うことのみが赦されており 逆あがるきみの記憶の襞にさえ…

詩集、歌集、全4作品改訂版、刊行。

過古の詩歌4作品を改訂し、出し直します。恥ずかしいことに、内容にいくつか誤植が見られたためです。価格は消費税を上乗せしました。リンク先で注文できます。よろしくお願いします。 終夜営業|Open 24 hours|発送受付 www.seichoku.com www.seichoku.com…

さびしい日本人

頭上高く跳ねるボールのゆくえまだ知らない曇天 斧あれど農夫足り得ぬわれわずか薄原にて尿をしたり 吊されるごとくにありていまに死す兎のなかの戦争秘話よ 事変近けれどわが足笑う ことごとく変化できぬかげ やがてみな霧が慰むものとなれ 礫を胸に抱きし…

からっぽの朝のブルース

水葬の喇叭の合図おかしみいざないながら骸を放る 天わずか触れる指あり午后はるかひろがるばかり冬のきら星 蝶番喪う夜よ木箱持て歩きさまよう子供たち来る つづきのない夢のなかにて眠れるをいま醒めてゆくかたわらの犬 ひとがみな憑かれて去りし道半ば老…

がらすの衣

あまざらす布地のうえをきれぎれに光り降りたる寒き汎神 カチガラス見下ろすなかを帰りゆく学生鞄の少女の犯意 道まぎれつつあり冬草に足をとられて転ぶ太陽 為すすべもなくてあまりにうつくしい麦の色したきみのうなじは かつてまだ夢などありしときおもう…

花とゆめコミックス

* 隠蔽されたおれの告白 人生の私家版 再建の叶わない納屋のような人生 夢は失せ、馬はくそをひりだす 時の檻に坐ってゆうぐれを待つあいだ、きみはどこにいる? いったい、どこへむかって歩くのか 星の陰謀論 呪術のない神話のなかで 組み拉かれた裸体だら…

天籟とピンボール

* 獅子神の蹄のあとに咲き誇る花があるらし血の匂いする やまなみに融けるものみなすべて秋暮れてたちまち花かげもなく 社会性なきゆえわれに降りかかるプレヴェールの枯れ葉のあまた 自裁ならずして存ることのなさけなさか道失えるきみ 波に咲く花かとおも…

ボール紙の犬と歌論

* やまなみに融けるものみなすべて秋暮れてたちまち花かげもなく * 一首詠んでみる。大したヴィジョンもサウンドもなく、即興で書く。考えて書かれたフレーズはせいぜい平仮名の「やまなみ」、そして「暮れてたちまち」ぐらいで、あとは勢いにませた。おれ…

普遍とは

* 花の名を知らないままで大人たることのすがしさあればいいのに 道くれない 案内板の文字かすむ 読めるふりして歩む黄葉よ 軒濡れてしたたる水の粒子たちキビの葉っぱをいちまい奪え アルカディアほむらのなかで示される少年時代の悪い種子だよ 駅過ぎる外…

黒い冬

* 不倖せ倖せ測るものさしはきみの睫毛のいっぽんでいい 永久語るきみの追憶いまだ火が燃えているのか問いかける窓 木々燃ゆるごとくにならぶ素裸足の少年ひとり雲ならべおり 水怒るような雨降るあしたには秋は終わってしまうと語る 便箋歌――夏の季語にて狂…

山犬伝奇

* 手のひらの葡萄の種を温めてやがて来る月占う真午 狼を祭りて濁る水まくら熱を帯びたるパセリ散らばる 岸渉るむこうに過古のぼくがいて怒りにまかせて麦を嚼んでる 豺の血が匂うのは薄原ヘリコプターをいま見喪う やまいだれいろはにほへとちりぬるをいま…

テレヴィジョンの夢魔たち

* 逆さまのテレヴィジョンより受像さる夢魔のうす笑みわれを慰む 道づれとなりぬがひとり沖に立ち灯台守の真似をせし夢 暮れ落ちるコンビニエンス・ストアの店員の女の子が星を指さす かりそめの男歌たるわが暮らし半裸のままで窓を横切る わが母に手をばか…

夜のスカーフ

* 暮るる窓飛び立つだろう幻覚のなかに存っては羽ばたきやまず 花房の月よ充ちよ充ちよ充ちみちよたとえばぼくの憂鬱の上 林檎飴今夏も食べずに終わり来てひとつ齢を過ぎるかなしさ 草はらに投げだしたもの みな光る 両足つつむスカートですら 傘なくば愛語…

黄昏

* 6階の少女はひとりうつむける涙の雨を捧げるために 光りなき両眼のうちに喪えるなまえのあったものたちなどを 星幾多あれどもわれの手にはとどかず伊弉冉さえも憐れな眼する 点描画の世界が濡れる滲む点いくつかに祈りいくつかにふるえ 窪地にてさまよう…

タンゴ

* ひざかりの天使たちかな唇を咬んでいまこそおわり来りぬ 一行の詩にさえひとが死ぬときの潮騒ばかり倖せな使徒 神隠しカミの櫓の梯子すら見喪ってる大人の悲鳴 まどろみの昼顔ひとつうらめしや少年暗黒合唱団来ぬ 戯けなどにまみれて暮らす裏町に置き去ら…

秋祭

* なまぐさき死せし魚を売る店も鱗のなかに紛れん夜よ アキアカネ暁に遇い新しき季節のあいま飛べばあやかし 入り口と出口でがともに繋がるる輪廻のなかの永遠の秋 立樹わる木々のなかにて眠るものみな伐られては竈火となり 遠い夜――火事の報せを聴きながら…