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花の名を知らないままで大人たることのすがしさあればいいのに
道くれない 案内板の文字かすむ 読めるふりして歩む黄葉よ
軒濡れてしたたる水の粒子たちキビの葉っぱをいちまい奪え
アルカディアほむらのなかで示される少年時代の悪い種子だよ
駅過ぎる外科医みたいな男いて ガーゼの傘を展げそんじる
みどり死す ガードレールの終わりにてひとり黙って祈る咎人
いまになって悲しくなった、自動車がだれも乗せずに坂を走るに
手を繋ぐようにお寺のかげに立つ探偵少年たちの蝋石群
意味にまだ触れないままで擬態する花かまきりの現代詩かよ
きみがまだ決定論にいるとして為すすべもなくぼくは遇いたい
ゆうぐれの貨物列車をかぞえ終えやがて理由のない道歩く
アカネチル祐子のいない街変わるなんにもいわない冬の針金
おもいでといえるものなく漆喰の皹をめくって記憶を飾る
いまさらに未来を欲す/普遍とはウスバカゲロウ果てるところか
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