みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

夜のスカーフ


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 暮るる窓飛び立つだろう幻覚のなかに存っては羽ばたきやまず


 花房の月よ充ちよ充ちよ充ちみちよたとえばぼくの憂鬱の上

 
 林檎飴今夏も食べずに終わり来てひとつ齢を過ぎるかなしさ


 草はらに投げだしたもの みな光る 両足つつむスカートですら


 傘なくば愛語に渇く唇のひらけたきずをいま取りかえせ


 「緑色研究」いまだ読まざる手のひらが銀杏に染まるるを見つ


 かの女らの回転木馬、主語が散る、電気馬へと同化するわれ


 瞼すら沈む湖畔よ 眠たいな だれが起こしてくれといったの?


 あふれだすおもいでばかり鈍行の列車に乗ってみたい朝どき


 茜すら女の隠語 夢を降る雨が分かつか きみとの距離を


 呼びかける地平線すらない国を離陸してゆく処女のときめき


 たわむれる刻の粒子がまざまざときみを分解してる導き


 童貞のせつなさ充つる帆は舟を翫んでは遠くかたむく


 きみがいるまぼろしばかりあがないができない場所で眠る犬たち


 国返せ、ことばを返せ、靴返せ、遠く家路の灯火返せ


 なみだならきみが流せばいいのだと告げる友だち、架空の子


 やわらかな 山羊のふくらみ 夜のなか 歩いていたら通せんぼされ


 むらさめの郵便夫がふと立ち止まり「冷房装置の悪夢」来たりぬ


 キキララの斃れる場所よ死ぬ場所よ星くずのもくろみなるものありや


 冬の菜を待っているのか制服に武装して立つきみのほむらよ


 崩れつつルーフのうえの蟻たちの世界の淵を見下ろす猫は


 サンリオのキャラクターのごとき国主ありパンケーキに蜜の浸みたり


 悪女らの祭りばやしや、花まんぢ、逃れ、逃れてたどる母子像


 学生鞄も天に解れゆく夜ならばきみのスカーフで闘牛しよう


 ひとり立つプールサイドに匂うもの 消毒液と夏のぬけがら


 だったよね? 奇蹟のようなサウンドの校庭にひびく調律


 きみはまだ夜のスカーフ濡れていた記憶のなかに目醒めるまでは


 水ぎわに律する歌よぼくはまだみそひともじの愛すら知らない


 なにごともなかったようにきみがいう ついさっきまで裸だったよ


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