みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

テレヴィジョンの夢魔たち

 

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 逆さまのテレヴィジョンより受像さる夢魔のうす笑みわれを慰む


 道づれとなりぬがひとり沖に立ち灯台守の真似をせし夢


 暮れ落ちるコンビニエンス・ストアの店員の女の子が星を指さす


 かりそめの男歌たるわが暮らし半裸のままで窓を横切る


 わが母に手をばかけたる夢を見し晩秋以前の花ものがたり


 共食いする家族の肖像まぎれなくぼくが殺した夢ものがたり


 うたかたの夢の隠語のなかですら飛べる翅もない男たち


 幻化する男のかたち容れものをなくして気づく存在の軽さ


 天地見喪えり砂漠のなかの町がいまぼくの頭蓋に銅貨を投げる


 カチガラス眸のなかに昏々と眠れる都市の風を見つむる


 だったらきみがわればいい 胡桃のなかに眠る季節を


 陽が枯れる秋の終わりの語りべのもっとも寒い心を掴む


 ニューカラーの写真のようにまざまざと駐車場いま野ざらしのまま 


 こんなうた歌いたくない いまさらに分裂四散してゆく天使


 こんなにも若さが青く光りたる夭逝以前の顕信の眼よ


 ゆっくりとおもみを増すは真夜中の黒い電話のしだれるゆえさ


 たぶん、いま、裸で走りだせばいい 林檎畑の漆黒のなか


 なればまた逢えるだろうか ひとびとが歩く速さで詩をしたためる


 朝になってむらさきいろの花咲いていた 町ででようとおもう祝日


 死の星の判事にあって人類の秋桜盛る野原焼くのみ


 くれないの人身事故よただきみに逢えないだけの時間が惜しい


 落下するテレビジョンたち 夢魔失せて食堂の主人泣きくれるまま


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