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道づれとなりぬがひとり沖に立ち灯台守の真似をせし夢
暮れ落ちるコンビニエンス・ストアの店員の女の子が星を指さす
かりそめの男歌たるわが暮らし半裸のままで窓を横切る
わが母に手をばかけたる夢を見し晩秋以前の花ものがたり
共食いする家族の肖像まぎれなくぼくが殺した夢ものがたり
うたかたの夢の隠語のなかですら飛べる翅もない男たち
幻化する男のかたち容れものをなくして気づく存在の軽さ
天地見喪えり砂漠のなかの町がいまぼくの頭蓋に銅貨を投げる
カチガラス眸のなかに昏々と眠れる都市の風を見つむる
だったらきみがわればいい 胡桃のなかに眠る季節を
陽が枯れる秋の終わりの語りべのもっとも寒い心を掴む
ニューカラーの写真のようにまざまざと駐車場いま野ざらしのまま
こんなうた歌いたくない いまさらに分裂四散してゆく天使
こんなにも若さが青く光りたる夭逝以前の顕信の眼よ
ゆっくりとおもみを増すは真夜中の黒い電話のしだれるゆえさ
たぶん、いま、裸で走りだせばいい 林檎畑の漆黒のなか
なればまた逢えるだろうか ひとびとが歩く速さで詩をしたためる
朝になってむらさきいろの花咲いていた 町ででようとおもう祝日
死の星の判事にあって人類の秋桜盛る野原焼くのみ
くれないの人身事故よただきみに逢えないだけの時間が惜しい
落下するテレビジョンたち 夢魔失せて食堂の主人泣きくれるまま
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