みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

月の光り

 


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 児戯すらも思想足り得ん雨の午后訪れたるを危むるまでは


 撮影者不明の女ひとりおり素行調査の夢はふくらむ


 逃げ水の輝く晌──繋船の窓にわれいる不在のために


 苺月熟れる梅雨かなあじさいの花の盛りに埋もれるひと


 梅の木のあふれる私恨道半ば斃るるままにされる花びら


 前線のつよき夜あり前借りを忍ばせて帰る傘の内奥


 眠り草咥えてひとり生家断つ血の果つる雲路のゆくえ


 肉体を持たない男古帽の主人の不在ひとり憩えり


 転生の蛙の一語ならずして神の金曜占星術
 

 生贄のはらわた熱く怨みとは兎のようだと話す男爵


 死に給いしものらすべてわが僕と語る公爵夫人


 姉殺しの夢から醒めて訥々と語る犯罪歴とわれ


 犠牲なきホームベースのうえをゆく走者のひとり不貞を赦す


 花月の未知なる化身スカートの足をまっすぐ泥になげだす


 妬心さえブルースとなる自己破壊して蘂ふたつかさなる


 つつましくあればいいのとユキがいう男鹿月まえの罪の扉よ


 汗しきる冷蔵倉庫バナナとは蝶鮫月の使いの玩具


 初茸の子供のような身が育つ長い休暇の収穫月よ


 狩猟月 けもののようなまなこしておまえが坐る檻のただしさ


 夜を撃つビーバー月よ司祭らが幼い臀を鞭打つ喜悦


 たったいまきみを愛した 寒月をさえぎる樹木見あげるままに


 エロスとは光沢 河を渉るとき、きみの布地のひらめくゆえに


 だれにも変身できない じぶんの布がひらめいて消え去る


 愛のない月の光りのむごさ照る汚穢のなかに鞭が放たれ


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