みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

黒い冬


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 不倖せ倖せ測るものさしはきみの睫毛のいっぽんでいい


 永久語るきみの追憶いまだ火が燃えているのか問いかける窓


 木々燃ゆるごとくにならぶ素裸足の少年ひとり雲ならべおり


 水怒るような雨降るあしたには秋は終わってしまうと語る


 便箋歌――夏の季語にて狂いつつわが手のひらの冬温かい


 暮るる陽に溺れながらも立ちており男の幾多奔り去る冬


 みてぐらを喪う少女なかんずく膝の白さが夜に融けいる


 ふたすじのなみだの境いま静か聞えもしない潮音がしてる


 いまどこにいるのかさえもわからない靴のかたっぽ雪に曝せば


 みながみなさみしい場所へ去ってゆく世界の終わりのつづきを夢む


 夢という一語をめざす目的語ひだまりながら助詞と戯むる


 眼を閉じる天使の一夜むこうから農夫の妻が仕打ちを伝え


 ああ寄る辺なさを愛すことの寂寞よ呼び覚ますものがない草枕


 契れ千切れ花の枯るるまで芽吹くものなき街の立体標本をかざす


 かぎるあることよかぜにてならび立ち暮れるいま尽きてしまう両手があって、


 統ぶるものなきわれよ冬の日の木綿豆腐を匙もて喰らう


 フジッリを茹でる朝どき薄曇る雨のささやきなればうれしく


 渉り来る水禽畔にとどまって翅を閉じては冬が黒ずむ


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