みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

短歌

秋祭

* なまぐさき死せし魚を売る店も鱗のなかに紛れん夜よ アキアカネ暁に遇い新しき季節のあいま飛べばあやかし 入り口と出口でがともに繋がるる輪廻のなかの永遠の秋 立樹わる木々のなかにて眠るものみな伐られては竈火となり 遠い夜――火事の報せを聴きながら…

無声物との対話

遊具走るひざかりのなかで子らに取り残されながら 貨車眠る過ぎるあまたの夢々を並べ替えては棄てる戯れ 帰宅せるわがアパートの排水をいま流れゆく空蝉たちは 素粒子に分解されて悲しめど生誕以前の神の業なし 他者の比喩ばかりがまかるガード下少女のひと…

灰語

しらたきのように両手をすり抜けるきのうのような経験があって、 ゆくえなど知らぬふりしてものはみな遠のくばかり秋のはじまり 両足を放りだしては炎天のむこうの街のまぼろしばかり やがて灰となるすべての愛をムンクに添えて歩くゆうぐれ 貨車眠る夜のほ…

草木図鑑

山河ゆく背嚢ひとりたずさえて故国の春に咲かんとす 花薺みどりの恐怖訪れてわれを招くは青い戦車か 失える鍵よみずから沈みゆくさらば春の日――葉桜並木 サンドバッグが死体のように横たわるボクサー地獄のほとりの水よ ソーダ水弾けてひとり地にかけりわれ…

うきわれ

* きみがまだ耳清らかなる少年のときをおなじくわれはさまよう 敵は遠くおれのなかから死者たちが戦場へゆく永久のごとくに 汗しぶく春の真午の運動よまだ若き青年のくるぶしを待つ 午后過ぎてに妬心のままに暮れなずむぼくの心臓だれに見せよう 春畑の深き…

短歌をたどる道

* '02年だったとおもう。国語の授業で短歌をつくることになった。当時車谷長吉などを読み耽っていたじぶんは業がどうのとかいう気どったものを提出した。そのあと、高校生歌集というものに教師からを参加を求められ、1首のみだした。反応はなかった。姉が嘲…

種子の落ちるまで《今月の歌篇ⅰ》

* きみがまだ耳清らかなる少年のときをおなじくわれはさまよう 敵は遠くおれのなかから死者たちが戦場へゆく永久のごとくに たが罪も洗いながさずわれひとり涜神たれん雲雀捕えば 汗しぶく春の真午の運動よまだ若き青年のくるぶしを待つ 午后過ぎてに妬心の…

群青《今月の歌篇ⅱ》

* つらいことも淡いことで中和できればいいと水源の水脈猶も逆らう いくつもの葡萄の繁る高みよりわれにふりかかる怒りの果肉 ただおもうことの恥じらい遠泳の犬のいっぴき波に消えゆく 定めより欲しかりし永久よトラクター赤き真午のそのまままにゐて 空砲…

婚姻以前《今月の歌篇》

* 父を呼ぶ納屋のくらがりばかりありだれも見えない婚姻以前 靴を失う――ときとして死後のことかのような息切れ 革鞣す男のひとり頭蓋にて転落せし夕まぐれ 父を殺す――わが夢なれば善き人生悪しき母なる星の最果て ひとづてに磯暮れなずむひと日あり石のひと…

冬のさまよい《今月の歌篇》

* わが冬の細雪さえ遠ざかる2月の真午手のひらに落つ あかぐろき鯨肉のごとコンテナの一台過ぎて暮れる冬の日 だれもないひざかりにただ忘れられ真っ赤な靴のヒールが黒い 凪を待つ労務者一同繋船のゆらぎに酔いどれているばかり 夜露照らされて窓いっぱい…

駈け抜ける原野すらも、もはやなくて、

* 陽だまりに捧ぐものなしひとびとの顔みなすべて意味などなくて 井戸沈む家系図燃えるひとときに壜詰めの胎児ひとり目醒める 喫烟と会話のあいま中空をゆくたそがれの雲のかなしみは 雲がゆく列車のかたちをしてどうしてだ、ぼくを拒むのは? いちがつも容…

だからその花があるわけがって、かの女がいったから、

* かの女らのけもののような黒髪のなかにわずかな町も枯れゆく なぐさめてみればいいよと声放つ木々のあいだを駈けるくるぶし 繋ぐ手のなくてひとりの10月を終わりたりいま竈にくべおる ただ見つむこと罪深くあればいい秋の終わりの黒帽をふって 樫により冬…

歌集「星蝕詠嘆集/Eclipse arioso」販売開始

中田満帆歌集「星蝕詠嘆集」、販売開始しました。よろしくお願い致します。ご入金確認後発送します。御購読ください。 連絡先:078-200-6874 / mitzho84@gmail.com振込先:三井住友銀行:藤原台支店(396)普通:7489267¥2500+送料¥350

歌集告知チラシ、訂正版。

森先生から指摘され、スペルちがい、そして振り込み先の記載がなかったので作り直ししました。(10/7)

歌集告知のフライヤー

今月、半ばに歌集「星蝕詠嘆集/Eclipse arioso」を出版します。つきまして宣伝用のフライヤーをつくりました。図書館などで配布する予定です。

歌集「星蝕詠嘆集」について

来月に刊行する予定の歌集「星蝕詠嘆集/Eclipse arioso」の表紙ができました。じぶんでは地味で面白味に欠けたデザインだとおもうのですが、師のすすめでこの表紙に決定しました。いまは印刷所を探しています。紙質や、部数など考えています。予算は6万ほど…

ユウコ、あるいは春の歌

拒まれているでもなしに鴉見てわれもひとりというほかはなし 午睡するぼくの意識に落ちてきて風にふるえる野苺の果は 春畠にたつたひとりのほほえみを浮かべておれを誘うマネキン 野兎のように児ら去るしぐれより隠しに寂し手はみずからの 夜間飛行いちまひ…

アベローネ、あるいは冬の歌

ひとの名を忘るしもつき机上にてミニカーいちだい消息を絶つ 安物のファルファッレを茹でながら架空の対話をひとりめぐらす トマト罐放ちつつあり琺瑯の鍋につぶやくかつての片恋 分光器かざして見つむきみがいた町のむこうの山の頂き 青む眼の一羽が鳴らす…

ユイコ、あるいは秋の歌

すべては見せかけだろうか崩落する宵待草反転する花と美人画 きみへの道すがら死んでしまったものたちを弔いたいけど茶器がない おれが死に銀河の西へゆくと聞き腹を立ててる母のまぼろし 月の夜のゴンドラゆれるまだわずか魂しいらしいものを見つけて うつ…

シティライツ、あるいは夏の歌

くちを噤む──きみのためにできるのはそれだけと識るこの夏祭 桶の水零れてかれは帰らない水面に熟れる桃へ夜来て ともすれば腿も危ういスカートの妹の肩に飛蝗あをあを 列車には男の匂い充ちたれて雨季も来たれり新神戸の町 ここにいて心地よければ祝福とな…

永訣のおもざし

* やがてみな花になるのか鳥になるかはかるか機影の翳むところにて 森しずかなり木の畝にどうしていまもうずくまっているのか いつまでも青傘のなかでかくれんぼしてるふたりの猫が ひとりのみかくれ莨のかげがある雨の降る港その端にいて 牛殺しの花がひら…

貧しき詩集(2007)

* すずかぜや眠る男の夢に吹き一瞬の絵を描きて去るかな 少年の一人の赤きまなこもてピカソの青に病むころもあり 他人の手求む一人の夜行より月の光のをはりへ急ぐ しぐれさす詩の一行の終点をどこに打つかな寺山修司 雁帰る何処ぞと問うも声はなし大方貧し…

july pt.2 《今月の歌篇》

* うごくことさえできずにきみが立っているのを観察する植物 でもそれがなんだったかがおもいだせない夏草のかげ くだらないひとだねっていわれるかも知れない大人になりきれないぼくは 花かすみ病かすみのなかでいま身をひらかれるひまわりの種 きっとここ…

縁日の世界《今月の歌篇 pt.1》

* july, july, july,──世界の果てにいきたいんだ世界のすべての七月のなかで もうじき晴れるという報せ来て河床に素足を入れる、ほらこれがきみの羊水 夏色の麦いっぱいの平原を飛べる蝶はるかまだ知らないところで落ちる 虹あがるボーキサイトのかなたにて…

雨季のエロイカ《今月の歌篇》

* 雨に煙れる町のむこうがわで一握りの石を拾いあげるきみへ 時折ぬかるんだ道に足をとられてきみを愛おしくおもう夕べ まやかしのこととおもえば少しは気が楽か英雄不在の失意のなかで あじさいがゆれるゆれるまたゆれてやさしさなどをあざけりゆれる 光り…

晩年についてぼくが考えたこと《今月の歌篇》

* 自由なく死なねばならんのか墓建てらるるひとびとよ詠え 風車やがて棄てられぬ恐山の遠く遠く翳むところまで 花車老いたれる陽よしめやかにいつか語れる憾みを持たず 押し花のなかに帰らん跫音のやさしきノイズひとつひとつと 遅春の木戸にふくらむ月のか…

東京(今月の歌篇)

* 銃後には雨が似合うといい洩らす少女のうなじ白く光りぬ ぬばたまのひとみのなかをちりぢりになっていつしか亡命者のような雨降る 意味のないなみだが流れながれ去るついに来なかった再会のとき たずさえて鞄のなかにゆられたる成熟以前の詩人の種子は こ…

ぼくの足は冷え切ってる(今月の歌篇)

* みずからを蔑してばかり遠ざかる町がらすのなかのかのひと ためらいもなくてぼくは呼びかける朱雀の翔る春の前触れ 鯨雲ひととき首垂れながら髪掻き毟る淡い午后の陽 月影のまたも滴る零時過ぎスケートボード横転する わるぎのないいたずらなまなざしにさ…

経験 [2016/01]

わがうちを去るものかつて分かちえし光りのいくたすでになかりき 指伝うしずくよもはや昔しなる出会いのときを忘れたましめ 過古のひとばかりを追いしわれはいま忘れられゆくひととなりたし かのひとにうずきはやまずひとひらの手紙の一語かきそんじたり 救…

夢と雨の日曜日 [2018/06]

* 老木のごとき時間を過したる夕暮れまえのぼくのためらい きみをまだ好きだといいてかりそめの証しを立てぬ流木の幹 涙という一語のために濡れながら驟雨の駅舎見あげるばかり いっぽんの釘打ちひとりさむざむと弟だったころをおもいぬ 薪をわる手斧のひと…