みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

多くのひとは

多くのひとは雲のなかで目醒めたりはしない 水のなかで熱くなったりもしない そして炎のなかで溺れたりもしない したたかな晩夏の光りのなかで芽吹き、 やはりしたたかな初秋の光りのなかで凋れるものはなに? もはや犯意を失った群小詩人のなかにあって、 …

アベローネ、あるいは冬の歌

ひとの名を忘るしもつき机上にてミニカーいちだい消息を絶つ 安物のファルファッレを茹でながら架空の対話をひとりめぐらす トマト罐放ちつつあり琺瑯の鍋につぶやくかつての片恋 分光器かざして見つむきみがいた町のむこうの山の頂き 青む眼の一羽が鳴らす…

それがなんであれ

それがなんであれ、いまは掴むしかない あした港湾業務が終わっておれはたったひとりの職探し なにものかになれるのなら、もうなんだっていいとおもったりする でもいまさらたどり着けるのは中古るの一脚 薄汚れた席のうえでぼくは沈黙するんだ、 きっと、そ…

This is Not a Loveletter pt.02

去年の夏、ぼくは酔いどれながら電車とバスで、 キタロッコー台までいった それから昔かよった床屋で死んだ女将さんについて話した かの女はもうずっとむかしに列車事故で死んでしまい、 あのころは息子である、いまの主人がテレビにでることがしばしばあっ…

なまえ

名づけられたものにできるのはなまえを奪うことだけ 名づけられなかったものにできるのはなまえを与えることだけ 他者のなまえを上着にしてぼくが町を歩くのは 遠い6月の朝から10月のたそがれ なにがただしく、 なにがまちがいなのかもわからないなかで ぼく…

LAGのギター

ぼくのギターはタグっていうフランスのメーカーのやつ そのメーカーでもいちばん安いギター ¥25000のやつを ¥19000で買ったのは去る年の11月、 温かい月曜日のこと、 ピックガードはないけど明るい木目がうつくしいギター ぼくはデモのレコーディングのた…

初秋'19

詩を書くみたいに小説が書けたらいいのにっておもう もうずいぶんまえから「灰は灰へ還す」という題名だけあって、 それはきっとながい片思いと失恋についての、 ちょっと滑稽で、警句の混じったものになる、 そうおもってる 神戸市内では夕暮れから雨、 雨…

雛菊

ぼくはしばらく廚に立って冷蔵庫に鯖があるのを期待した 夏の午后おそくぼくは帰ってきてそれを望んだんだ でもそれは叶わなくなった 夕暮れの使いが ぼくを閉め出したから だからなんだって ってきみがいう かつて母が父を扱き下ろしたみたいに いまだに鳴…

ユイコ、あるいは秋の歌

すべては見せかけだろうか崩落する宵待草反転する花と美人画 きみへの道すがら死んでしまったものたちを弔いたいけど茶器がない おれが死に銀河の西へゆくと聞き腹を立ててる母のまぼろし 月の夜のゴンドラゆれるまだわずか魂しいらしいものを見つけて うつ…

ぞく・無料詩集「piss out」について

おれの詩に魅力があるのか、そいつはわからない。どっかのサイトで「オーセンティックな古い書き手」だといわれ、「書き手に魅力を感じないから詩にも魅力を感じない」などといわれてから数年余り、なんとかこうしてやっているわけだ。だれがいったい、なに…

シティライツ、あるいは夏の歌

くちを噤む──きみのためにできるのはそれだけと識るこの夏祭 桶の水零れてかれは帰らない水面に熟れる桃へ夜来て ともすれば腿も危ういスカートの妹の肩に飛蝗あをあを 列車には男の匂い充ちたれて雨季も来たれり新神戸の町 ここにいて心地よければ祝福とな…

食肉に関するレポート

手負い それがうかつだったのかも知れない 穴熊は罠から逃げようとする一瞬だった かれは銃を持って威嚇した 鳴き声がした それが祈っていたし、 呪ってもいた 畑のなかで かれが想像したのはすき焼きにされる穴熊の映像だった かれはいつもじぶんがタフであ…

裸足になりきれなかった恋歌

とにかくぼくがいこうとしてるのはきみのいない場所 トム・ヴァーレインにあこがれる女の子のいる場所 リアルさがぼくをすっかり変えてしまった 現実の鋭利さ、あるいは極度の譫妄、 それらの果てで、いままでのあこがれがぜんぶ砕かれたんだ きみのことだっ…

so empty

若さになにか意味があるとして、それは失ってから考察されるもの アパートの外壁工事が始まりだした7月の中空をおもいながら 高圧洗浄機の唸りを聴いてるのはおれが敗れものだから きょうは仕事にありつけなかった 残りわずかな金を気にして 身うごきができ…