みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

まくらことば

 

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 あからひく皮膚の乾きよ寂滅の夜が明くのを待つ五月


 茜差すきみのおもざし見蕩れてはいずれわかれの兆しも見ゆる


 秋津島やまとの国の没落をしずかに嗤う求人広告


 朝霜の消るさま見つむきみがまだ大人になり切れない時分


 葦田鶴の啼く声ばかり密室にボールがひとりバウンドしてる


 あぢむらのから騒ぎかなひとびとが転落したり天国の淵


 みみずくのような一生反転する・ぼくが生きてゐるという仮定法


 天雲のたどきも知らず運命の一語に滅ぶ線路工夫よ


 あまごろも陽射しのなかを青々としてからっぽの袖口


 あまびこの音降るしぐれ天掟よいまわれのみを解き放て


 あをによし くにちの森を抜けて猶神の両手に捕まれてゐる


 いそのかみ 降る雨がまだ生きてゐる われの不在を示さんために


 うちなびく草が毛布のごとくありわれは眠れりみなしごのごと


 母にとり姉妹にとってわれはいま存在しないものとなりぬ


 うつせみに過ぎぬこの世も去りがたしただ見るわれはきのうのごとく


 うばたまの夢が波打つ岸辺にて流木ひとつ持ちて帰らん


 樫の実のひとつを拾う刹那には木漏れ日ばかりあるのみなのか


 葛の葉の憾み遙かな妹のわれを蔑むまなざしおもう


 高照らす日の皇子たちの蹴鞠歌わが世の秋をいよいよ閉じぬ


 玉かぎる仄かな灯り武装する都市計画のゆくえはいずこ


 垂乳根の母なるものを拒みつつわれはさまよう記憶のなかを


 乳の実の父よ虚勢の砦にて滅びるままにわれは見殺す


 まだ生きる蠅の一匹秋の夜の長々しきをあだねするまで 

 

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