みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

星からのわるい報せ

 

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Mauvaises Nouvelles des étoiles



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 ヨナが啼く湖水のうえの月あかりいま語りたる出イスラエル


 死がいまだ経験ならず機関手の手袋ひとつ星に盗らるる


 朝来れば天体模型消えゆけり煙だらけの窓がささやく


 オリーヴの罐詰めひとつ破裂する銀河の果ての汐のかおりよ


 金星の眠れる真午てのひらの陽差しのうえを俄雨降る


 暮れる陽の暈の色して澄んでいる知らない街の一番星よ


 チョコート滴る夏よパラソルの最期のひとつわれを拒むか


 月面の秋よ離陸を懐かしむ飛行士たちのたそがれつづく


 呼吸する人工都市の綺羅星をばらまいてひとりの宴


 消ゆる街ねずみ落としの孔を経てみどりの星にたどり着くかな


 沈み月・アイラモルトのひと壜を抱えて眠る牧人たちは


 あかときの月のおもざしかのひとのかつてのようにやさしく消える


 夜の車掌・両手いっぱいの星を狩る・倫理に裏書きされた罪よ


 黒帽子たずさえていま円錐のボーキサイトに触れる七月


 木戸ゆれる箒星らがまかりゆく路次のむこうの地政学まで


 支那人の舟を数えて幾千の日が奪われる領地とともに


 充つる夜のバー・スタンドに幾人の星がまぎれる惑星の角


 かなしいといえず、みどりのいろがみに落とす光りを星と命ずる


 三日月の男たちまで眩ましたペーヴメントに落ちた星たち


 莨火を月に透かして通り過ぐ紳士たちみな昇天のなか


 麦をする夏の兵士よ大汗のような水星いま降りしきる


 墓運ぶ死人のような声がする・夜のラジオの熱中症


 デング熱が呼びかける がらすのなかの糖蜜の色


 大父の色彩図鑑 月色の見本色のみ奪われている


 夜という辞の語源たどり着く解を忘れた方程式は


 七月よ青の深度よくり返す誕生月のさびしさのなか


 かさなること拒んで まだ知らない手を望む・天文学


 星の声たかく鳴りたる夜浅く半円形の瓦斯はさかまく


 夢を 夢を 夢を いまだ見えない月のうらがわ


 夜に咲く花なれば剪られよ その紳士はそういって消えた


 靴を脱ぐ無人飛行機 神に非ず、また神に似ず


 鞴踏む老いたる父よ惑星の因果律など知らぬままおり


 受信機のやさしい初夏がやって来る 黒猫がみな膨張する夜


 たらちねの深夜放送カロア咲く画面のなかの一瞬の右手 


 たったいま冷蔵装置停止して熱膨張のかなしいゆくえ 
 

 星からのわるい報せさ たったいまぼくの両手を粒子が奪う


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