あまざらす布地のうえをきれぎれに光り降りたる寒き汎神
カチガラス見下ろすなかを帰りゆく学生鞄の少女の犯意
道まぎれつつあり冬草に足をとられて転ぶ太陽
為すすべもなくてあまりにうつくしい麦の色したきみのうなじは
かつてまだ夢などありしときおもう空中ブランコだれぶら下がる
地下鉄にゆられるごとに逃亡の夢また夢がひらく始発よ
かたわらに抱くものなしそれでなお果実のひらく季節をおもう
使者もなく室のうつろを眺めやるがらすの衣着るごとくあり
葱を抜く一瞬われに宿りたる神曲以前の農夫の声よ
冬鳥のつばさが光るまなざしはいずれも無神論を歌えり
文法書燃ゆる街にて詩を歌う酔狂人のよいどれるまま
やがて腐れる実の幾多ふと外套に忍ばせて歩く夜とまる夜
素裸のわれみずからの膚を抱く ひとりの聖夜、冬の水風呂
握る手もなくてひとりを歩みゆく夜の密度を算出しつつ
われひとりまびかれゆきて幸福の鐘の音いまだ鳴りやまぬなり