みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

がらすの衣

 


 あまざらす布地のうえをきれぎれに光り降りたる寒き汎神


 カチガラス見下ろすなかを帰りゆく学生鞄の少女の犯意


 道まぎれつつあり冬草に足をとられて転ぶ太陽


 為すすべもなくてあまりにうつくしい麦の色したきみのうなじは


 かつてまだ夢などありしときおもう空中ブランコだれぶら下がる


 地下鉄にゆられるごとに逃亡の夢また夢がひらく始発よ


 かたわらに抱くものなしそれでなお果実のひらく季節をおもう


 使者もなく室のうつろを眺めやるがらすの衣着るごとくあり


 葱を抜く一瞬われに宿りたる神曲以前の農夫の声よ
 

 冬鳥のつばさが光るまなざしはいずれも無神論を歌えり


 文法書燃ゆる街にて詩を歌う酔狂人のよいどれるまま


 やがて腐れる実の幾多ふと外套に忍ばせて歩く夜とまる夜


 素裸のわれみずからの膚を抱く ひとりの聖夜、冬の水風呂


 握る手もなくてひとりを歩みゆく夜の密度を算出しつつ


 われひとりまびかれゆきて幸福の鐘の音いまだ鳴りやまぬなり