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手のひらの葡萄の種を温めてやがて来る月占う真午
狼を祭りて濁る水まくら熱を帯びたるパセリ散らばる
岸渉るむこうに過古のぼくがいて怒りにまかせて麦を嚼んでる
豺の血が匂うのは薄原ヘリコプターをいま見喪う
語りべの黒髪姫の櫛滅ぶ故郷に春の来たることなし
水色のおおかみ走るわがうちを汚して去りぬ妹のごと
天はるか展びゆく土地の黍色に高く跳躍せしは二輪車
蘂落ちる水のおもてにきみがいるまぼろしだらけ暮れ落ちるなか
頼るひとおらずや燕うらがえり木葉山女の首落ちる
くらかげに沈む帽子よ秋草の幾束燃えていま淋漓たれ
声吃るわがアパートの窓に来る一輪ざしのような工事夫
夜学する若者たちのおもざしに秋雨ばかり奉るかな
エーテルを嗅ぎつつなれば夜を撃つ伏射の姿勢そのままでいて
惜しむ秋あらずや茸を狩るひとよ首狩るように鎌は閃く
玻璃ゆれるメタモルフォーゼ紅の仮面のなかの夢また夢
かぜに啼くくちびるばかり心臓の在処を教え給う弟
花が散る貨車のなかにて眠れるをふとゆりうごかせばかのひと笑う
子供ぢみたいいわけばかりさかる秋だれと繋いだ手をいつくしむ
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