みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

掌篇小説

砂漠963

* ひどく退屈だ、年の瀬ってやつは。ひとがいない。通りにも、このネット上にも。文藝サイトはいつも閑古鳥が啼いてる、そしてそれもやがて聞えなくなった。あるのは死。夢絶のなかの静かな死だけだ。おれはサイドボードから零れ落ちた手紙を拾う。そしてあ…

バナナな日

* とにかくバナナだった。凾のなかのバナナ、作業台の上のバナナ、廃棄袋のなかの黒いバナナ、女の手のなかのバナナ、そしておれの手のなかのバナナ、おれの股間にぶらさがっているバナナ。おれは通称ゴカイで作業をしていた。薄暗い倉庫の別棟の5階で、男3…

アルコールはもはや、

* アルコールはもはや、かつてのように気持ちのよいものでなくなった。かならず連続飲酒と悪酔いが待ってる。つぎの朝には起きることもできない。だのにやめることができないでいた。あたらしい仕事が決まった11月20日の朝、おれは寝過ごしてしまった。バス…

バナナな日

* 夏の陽ざかりのなか、南瓜の梱包と荷積みが終わって、みんなが苺や林檎の検品と袋詰めに狩りだされた。寒いくらいに冷房の効いた上組という会社の倉庫のなか、おれは午後の作業が始まるまでを待っていた。こういった単調な労働ばかりしていた。腰を入れて…

不安――あるいはボールの行方

* 猟銃の発射音が聞えた。北野の高台のほうからだった。たしかに聞えたはずだのに、だれも110番に電話をしないようだった。とはいえ、おれもしなかった。猪でも撃ったのかも知れない。時間は10時半、すっかり明るくなった陽差しのなかで、おれは窓をあけ、…

ニンフたちの晩餐

* ロバート・フロストに目をやりながらも、湊谷夢吉の唄を聴きながらも、森夫は退屈し切っていた。やれることがあまりない、ほとんどない。手の施しようのない人生を冬が横切っていく。表の公園は静かで、たぶんだれもいない。アパートの3階からはラブ・ホ…

夢のなかの同窓会

* たまらなくなって、おれは懐いだす、朝の早い時間を走る軽トラックの車窓、回収量の進歩を褒めてくれた業者の男、新聞紙と一緒にビールを何本もくれた、両手のない老人、おれにやさしく、身の振りを案じてくれた禿げ頭の老人、作業中に見つけた、ひとりの…

週末のラジオ

* 散水機が回転しながら水を撒き、青い芝のうえに曲線を描きつづけている。真昼のこの町もすっかり秋になった。母さん、聞えますか?――いままさにむかいの犬が吠え、やがて交尾の喘ぎが聞えて来ます。あなたがぼくの犬を棄てにいった夜、あなたの眼ン玉めが…

消費者

* 《気づくと、おれは腹を押さえながら傘を差して、元町は、裏通りのガード下まで歩いてた。雨が激しかった。血はそれほどでてない。いまならまだ助かるというのにそこらで酒を呑み、最期に残ってる薬を3つもキメる。たまらない陶酔感と、刺激臭、そしてじ…

悪魔の私娼

* のらりくらりと中指を突き立てながら、その男はおれの標的となるべく、ポーカーテーブルの端っこから、こっちにむかって右手のナイフをふりあげた。けれども生憎のところ、おれのほうが早く、やつの右手を蹴りあげて、やつが壁に背中を預けた一瞬、腹にフ…

少女にも魂をください

* むかしの夢日記を整理しながら、酒を呑んでた。きょうは土曜日。いつもの通り、7番から9番までのレースをAーPATで買った。単勝を1点、複勝を2点買って、なんとか凌いだものだ。勝率は大したことない。おれはビギナーだったし、競馬についての知識すら、1冊…

冷蔵庫のバックパネル

列車を降りてしばらく、かれはあたりを見渡してその味気のなさを噛みしめる。なんだってこんなところにとおもい、さらにはここしかないという気にもなった。やがて事務所兼寮にたどり着いて、ドアをあけた。机のむこうの中年の小男が立ちあがって、かれに握…

アルパカを逃がせ

* じぶんの人生の私家版をとっくのむかしに書きあげてしまった。育成歴、学歴、職歴、犯罪歴、なんでもござれだった。でも、その本はまったく売れなくて、今度の文学イベントにもたずか2冊だけ、タダで配るつもりだった。原価がかかり過ぎた。うぬぼれが過…

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環状線に乗って、じっくりと街を眺めた。そのとき、なんとなく覘いたタイムラインに頭のない女の死体を写したものがあった。頭のほかはちゃんと服を着てて、それまで生きた人物だということがわかる。どっかの地方の事件を研究した、発禁本のページらしかっ…

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金がすっかりなくなった。¥18,000はあったのに。そのうち、¥12,000はイベントの払い戻し、¥5,000は施しで、¥1,000はなんだかわからない。またも酒に溺れてしまってた。学習するということがわかってないのだろう。なんとか食料品の備蓄はしたものの、洗…

宿営地(*the repeat)

* ようやくたどり着いたとき、その家にはひとつの扉しか残されてなかった。黒い扉が立ってて、そのむこうには焼けぼっくりが広がり、おれたちの何人かは膝を折って、呆然とそれを見つめるか、うつむくしかなかった。おれはかまわずに扉をあけた。扉を支えて…

孤立のままに

* 花のない8月のひと日、その鬱憤、その連れあいよ、いまままさに拓こうとする不運の裂けめから、やがておれのなかに闖入してくる、さまざまな現実。そっからどうにか、眼をそらそうかと気を揉むだけの夜だ。おれは腹を空かしてタイピングしてた。手許には…

東京幻想

* 水の撥ねる音がする。暗い陸橋を高速バスで走りながら、ふと窓を見た。取り残されたみたいな丘のうえで、坐礁した海豚の群れが見える。でも、それは肩身を寄せ合って生きる建売住宅の群れだった。なんだか、さみしいものがこみあげた。バスは東京にいこう…

視姦容疑

店内アナウンスと監視カメラ、そして防犯防止鏡がおれを見つめる。乾いた土、夏の真昼。スーパーマーケットのなかでおれは酒を見てる。ワインコーナーにはだれもおれを見つめる者も、追いかける者もなかった。だから、そのなかから白ワインをとって、左手に…

エセ詩学の半ダース・パック

* おれの短歌がイッた。歌集のための前準備が終わったということだ。あとは15年分の作品を撰んで本にするということだ。撰はわが師に任せるとして、おれは来週から装丁のためにラフに手を着けることにした。金曜の長い午后のことだ。おれはもう2年、まとも…