みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

yo-su-ga


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 妹をかぞえるすべも見つからず陽だまりのなか帽子をなくす


 谺する子供時代の口惜しさを書きためて猶わが詩篇ならず


 まぼろしの歌集がひとつ空へ帰す文学以後の暮らしのために


 育つの樹の内部の夜よ雨ざかる丘のうえより見下ろす町


 海に倦むかりそめばかり恋沈む少女そばかす暁に死す


 なみだとは心の言語押し返す波のはざまにゆれる葬儀屋


 葬儀屋の娘のひとり花を剪る剪定ばさみいま光るなり


 人体をつらぬく事実・人さらい・V感覚の男が笑う


 ギブスンの小説ひとつ教授する贋大学の教室の孔


 火ざかりの馬が駈けゆく大土をいまひらかれる草原がある


 ひめごとのような月夜の歌を詠むただ永遠のときを求めて


 きみの顔が好きだ きみの顔が好きだ きみのこころなどいらない


 ファルスとは慈悲といいたる税官吏突如退職する真夏


 子殺しの母のまなこの光りすら雨に打たれて消える8月


 せめてまだきみを殺さずにいたい 心のなかのきみの姿を


 大父の御霊よアルコール中毒受け継ぐわれがいる


 たどり着く花の過失よ恐怖とは過去の国からやって来るもの


 ひるがえる夜のマントよかくれんぼする子供らを連れて去るかな


 シャッター街つづく路次ゆく道わずかふるえてる


 死の祈り黒衣のなかに育まれ、やがてだれかのかげふみ遊び


 労働歌、ブルース、ひとり口遊む 陽のあたる道の窪地で


 恋失う 日陰のひとよふたたびを回転木馬の眸に望む


 かぜにただ触れていたいと口遊む夏の終わりの兵士たちかな


 午后の夢・再放送がいま終わる 最終回を知らないぼくら


 公園の遊具がひとり泣いている 放課後時刻のひとびとを観て


 反逆も果たせずにまた帰りゆくバンドワゴンもせつない夜よ


 雨だれのフレンチ・キスよ舌ふたつからませて識る夏よ


 祈りとは最期の仕草眠りゆくスーパーノヴァの罪深さかな


 怖くないよ怖くないよ、きみがただいなくなってゆくだけだから


 宇宙線超える麒麟の夢を見た咎人ばかり並ぶ床屋よ


 歌を詠むことの欺瞞がまざまざと教師のなかの子供の化身


 海を買う盥のなかの潮騒に追憶を見る法医学者よ


 水風呂に魚を放つようにいまきみを監禁したいのだ


 旅まくら水に沈める夜をゆく花一輪のいざないばかり


 母という一語を憾む少年の熱帯夜などおもいぬ夜は


 蚊柱の輝くほうへ歩みゆく母なるもののすべてを憎む


 会話体書けずに終わる午后はるかひととの繋がりも薄く


 救いなき孤立の仕草足裏を見ながら暮れる地平のなかで


 夜霧発つ愛の不在を歌いつつ沖を流れる歯科医師ひとり


 ひざかりの時計の針で処刑する花いちもんめの終わりの科白


 痴語たれる女の夏よ澱みつつ鏡のなかにかくれんぼする


 夏嗄れた詩神葬列女騎士いずれの仮面剥がして去りぬ


 溢れたる水の器の悲しさが抱擁求めいまひるがえる


 縁日の世界にひとり残されて岸のむこうの国を数える


 ひとのような夜が歩いている真夏遠くから聞える「変身!」


 やがてわかれるだろう ポエジーともセンチともつかぬ声とも
   

 ギターが地平線を描く、ぎらぎらっな時間


 時間だけがあたらしいねときみが酸漿を呑みこんだ夕べ


 為すすべもないままときに焼かれたる羞恥のなかの浅き孟秋


 オーキッドむらさきいろの立ちこめる白い翅のあざむ雲入り


 脚注の若さばかりが迸る賢司詩集の蒼白き紙


 死してなお墓を持たずに立ちすくむ詩人のひとりとなりたし午后


 ゆうぞらの赤紫が打ちつける痛みのなかの倖せありぬ


 草のように生きたいという まだ知らぬ愛ゆえにおもう夕餉どき


 孟秋も過ぎてひとつの円環を為せば鬼のひとりも取り残さるる


 砕かれて神の証と謳うときに偶像たちの反旗はゆれる


 歌うたい殺さるる午后のこと渓谷遙か銃声があって


 標なき道があかるくなるほかに夢が去らずにだれにもいえず


 真空パックのシメサバばかりが運ばれるテープエコーのさざなみのうえ


 花ごよみ秋の初めに読みながらいま眠れる時を遮る


 夏残る病院坂の半ばにて夏服ふたり歩くスピード


 青豆のようなむくろが温かいコンソメスープやがて呑み干す


 ふるさとの惑星より半分はなれ来て神戸という終点にいる寂しさ


 ひとり棲む儚さばかり秋の草手のなかにまだ緑があって


 かぜに建つビルの裏窓ひとつあり手をふっている顔だけが見えず

 
   *

 

『よすが』

『よすが』

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