みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

mental floss


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 午后9時から、地獄のモーテルで結納式を始めます 新郎は裁断機のなかで鰤の肖像を描き、新婦は米櫃のなかで猫いらずを精製します また仲人は土地の買収に失敗したために養老院の入り口で三角法を学ばれています 是非ともみなさま方におかれましては心臓の熾きでしばらく糸を垂らし、水平ぎりぎりで、

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 燃える惑星について昆虫が教えてくれたのは石くれの魂しい あるいは燃える凍土についてかれが教えてくれたのはジュークボックスの涙 枳殻のなかで芽吹くもの、そして切断面に咲いた花の伝説が、いま競技場に移植されて選手の髄液を狙うのはきっと、ぼくがひとり、このレパートリーを立ち去った贖い

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 天使の顔面でレコードを回すのは色彩にとって悲しい たぶん、スカートのなかで足が逆さになったときから、じぶんにとってすべてがむなしくなってしまったんだ だから空砲だけを残して、かの女は消えてしまう 戦争は愉しかった 制服の懐いでがぼくのなかで澱む 夜みたいな室で心臓が開店する

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 公衆便所に詩人がいる 待合に詩人が坐る 図書館で詩人が眠る 私立大学の屋上に詩人が立つ 皮膚科の診察台に詩人が横たわる 公園の遊具で詩人が遊んでる 野良猫のあとを詩人が追う けれども詩集のなかには詩人がいない

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 ビートの混血が音楽を掃射するとき、頬笑む少女が回転式の葡萄に巻き込まれてしまい、ぼくはとても淋しかったのはカラックスの残像だ もはや、もどれない速さで人語が堕落する 移民を堰き止めろとだれかがいった ではこの索漠をだれがいったい歩くのか 答えは電気冷蔵庫すらわからないから、

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 戦争はよくないと思います なぜなら桜の国の散る頃にすべての猫が消えてしまうから すべての猫を花に還元する能力が学校には欠けてるから 星の落ちる速度で教室を沈めます 牛乳壜のなかで発酵した月が毎日うるさいんです 戦争はよくないと思います なぜなら制服が汚れるから

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音楽について

 

 空間的な音楽が侵入する夕暮れの室 レコード・プレイヤーが落下する速度が必要だから父親を殺すのは愉しい たぶん連結部の毀れた市電がまぶしい採光のなかで乗客たちを愛撫するのに疲れてしまったから おれはとても淋しい 破壊された偶像とベーコンエッグサンドで経典を誂えようとする一群が天守閣のなかで踊りながら没落する テレビジョンの科白たち、あるいは頭のない鶏たちが奏でる天体の音楽 そしてだれよりも末永くおつき合いしたいという女の声ととも司会者のない空間が、空間らしい音楽のなかでゆっくり融けてしまうまでを炭酸に充たされながら待ってる。  

泳ぐ

 

 魂しいは泳ぐのが好きだとミショーはいった
 薄汚れた本が、背表紙がわらう
 伏射の姿勢で本を読む午后
 またもおれは読者を失う
 くそったれどもの面の皮を剥がして、
 風船で飛ばしたい
 河は愉快だ
 おれは漂流物みたいに室のなかにいる
 19歳からずっとつき合いのある化学教師をしてる詩人に喰いものをもらった
 冷蔵庫をいっぱいにして、おれは地階に降りてゆく
 雨で充たされた通りを車が流れてゆく
 あらゆる階層から叩き落とされた人間が助けを求めて叫ぶ
 おれにできることはなにもない
 普遍であることを赦されず、
 そして愛にも与れない寂しさで、
 おれの腹ははち切れそうだ
 鯨の夢が砂漠を占領する
 領地を掠める一羽の大鳥が
 太陽の真下で融けかかってる現実 

 

最後の一匹


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 粉末ジュースを呑みすぎた少年時代のおもいでが、
 後頭部でフラッシュバックしながら遠ざかってしまうとき
 晴れがましいほどの青さを浴びながら、
 クロスワードパズルの答えがわからない老人たちよ
 問いかける、
 侵された領土みたいにもの憂いスカートの女子高生たちよ
 問いかける、
 言語と禽獣がクロスして路上を舗装していく原型のない夢たちよ
 きみら、みんなが破壊してきた、抒情詩集の染みよ
 問いかける、
 おれはなんといっていいのか、わらないけど、
 黄金律となって舗道を描く、最後の一匹の、生き残りになりたいんだ
 髪が黒から緑になってやがて、抜けていく
 抜けるほどの青い芝で、
 おれは1日中、
 おもった
 だれが回転木馬を発明したかを
 どうか木馬のためにダートを
 どうか木馬のためにオッズを
 どうか木馬のために厩舎を
 そして色とりどりの騎手たちを
 あまりにもばからしいことがつづいた
 いらない買いものばかりで金がなくなって
 両の手はからっぽ
 どういうわけか、
 おれは高所恐怖症だ
 たぶん、飛べないからだ

A Boiled Cocker's blues

 

 深夜の生田川にはだれもいなかった
 桜はあらかた散ってしまってる
 おれは口癖をいった
 ユカコ
 かの女のなまえを忘れるまでの距離はマイル計算でいくらだ?
 はぐれものの歌のなかでいったい、なにが赦されるというのか?
 ──友だち?
 ──ただの記号じゃないか?
 おれはそういって、おれの霊柩車を送りだした
 おれ自身の埋葬のために走りだした馬たちがまだ、
 支度のできないおれをなじって墓を掘る
 死ぬからには墓がいる
 晩年を過ごすからには帽子がいる
 そして口癖を忘れるにはどうしたらよいのかがわからないでいる
 きざったらしい定型詩のなかで、
 いつまでも人間は宇宙の隠喩であるなどと、
 戯れてるわけにもいかなくなって来たんだよ

 ユカコ、やめろ、ユカコ
 消えろ、ユカコ、おれの内奥から、ジュークボックスから逃げるんだ、ユカコ
 最後のコーナーから勝敗をくつがえす一頭の馬みたいにユカコがいない世界の入り口を待つ
 待ちながら、金がなくなっていく
 あと¥886
 おれに勝ち目はない
 それは知ってる
 それでも、とおもった
 言葉がなくなればかの女も消えるはずだ
 おれは処方された薬を掻き集めて嚥んだ
 気づいたときには病院で胃を洗浄され、
 苦しみのなか、呻いてた
 おれが生きてる、言葉も生きてる、そしてユカコさえも生きてる
 どうしてだれもおれをべつのところに連れていってはくれないんだ?
 おれを言葉から引き剥がして、色や音へと変換してくれる情報剥奪機をまだ探してる。