みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

タンゴ

 

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 ひざかりの天使たちかな唇を咬んでいまこそおわり来りぬ


 一行の詩にさえひとが死ぬときの潮騒ばかり倖せな使徒


 神隠しカミの櫓の梯子すら見喪ってる大人の悲鳴


 まどろみの昼顔ひとつうらめしや少年暗黒合唱団来ぬ


 戯けなどにまみれて暮らす裏町に置き去られたるハンバーグあり


 詩がいまだ詩であることの証しすらなきままに存る夜の詩集よ


 靴下を繕うひとり夜なべてすべてのことの可笑しさに泣く


 踏む土地のコールド・ケース積まれては火掻き棒にてすべてを崩す


 蜂鳥の声また声が過ぎるまで竈にマッチを入れずにいたり


 舞踏するレゲエのなかを紛れしむ恋人たちの土曜の罪よ


 銀色にふるえる羽根よかつてまだ人間たりしとき懐かしむ


 かの土地を過ぐる列車よ反語にて解き明かさるるわれの出生


 小蠅来てわれを苛む桃色の雨後の雲さえ窓に暮れゆく


 銀嶺よあなたはなにを憎むのか山脈光る13秒ゆく


 一服の大麻求めて夜あるく愛も笑いもなくした路上


 黄身色の光りのなかで秋ひらくたとえばきみが髪を解くとき


 天窓の少女展開せる夜半透視図法に挫けるわれは


 腐れたる果肉の一夜浮浪児の舌を慰む桃の蜜かな
 

 舞踏する処女のおもざし昏くなる一情景のタンゴの舞台


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