みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

10月の暑い夜

* ブラジルから来た少年が通りで撃ち殺される 被疑者は嘆きの壁で、沈黙を貫いている 取調室は熱で彎曲していて、とても歪だ キュビズムが侵入した形跡もないのに、シュールレアリズムが混入したわけもないのに、ただ一輪の花が中央に活けられている レモン…

花に嵐

* ハナニアラシ 花にまつわる文法についての挿話 送り火がまわる芒原の果てでホールデンを幻視する鰥夫の男 発熱のやまない室で、氷水が爆発する深夜 仔牛の肝臓を輪切りにする作業のなかで、淋病患者の呻きが聞えた 惑星は消える 失われた12使徒を妄想する…

gloomy days

* ないがしろにされた帽子がいじけている パンクしたはずのタイヤが蘇生する秋 右手から左手までの距離で運行される靴が交通渋滞のせいで凋んでいる 解体工事の終わり 道が霞んでしまってよく見えない 町がひるがえるところで生活が始まっている 当然のなり…

green hill hotel

* 星の所在がわからないばかりに、だれもいなくなった室で銀鮭を輪切りにする もはや秘密を持たないからだが鬱と躁のあいだを駈巡る 天文学と植物学を結合したあの手が 男の内奥に侵入して帰って来ない夜 ヴィジョンは討論されないまま、かれの脳に移植され…

星の子供たち

www.youtube.com * インタープレイの遊戯が終わったあとに立ちあがった少女が潜水病にかかってしまい、ぼくはとても悲しい グラスにウォッカを注いで、熱い氷を入れる たったいまはじまったばかりの喜劇が悲劇でなかったというだけの理由で撃ち殺される 兎…

a vision

www.youtube.com * すべてが星に還るとき、射貫かれた魂しいが歩き去ってしまう 駅のポスターが燃えながら笑むとき、女工たちが波のようにゆれる かたわらに犬を連れた男が空中散歩を試みる夜 できそこないのじぶんを正当化したいがために、電柱を登る たと…

the beach boys strikes again

もしも死者が定型ならば、 生者は不定形ということなのか 水に浸かった流木が沖に着くとき ぼくのなかに存った永遠という辞がすべて、 駅という一語に置き換えられるのはいったいなぜか いままで忘れられてきた問題集が解剖される夜、 ビニール傘はなぜレン…

rush over the lifetime

* ラッシュフィルムを装填する婦人会の集いが終わる 月曜日の朝どき 乱反射する小島なおが韻律のなかで回転するのを床屋の主人が見守っている 薄汚れた窓だった スカーフの赤さがあたらしい9月、それを求めていっせいに選手たちが飛び込む 土はやわらかい …

変身

* 映画が終わってしまった 夏の情景設定がうまくいかない 配役を忘れたスクリプターが聞き覚えのない歌を口遊む 律動する心臓の音楽 サティとフォーレをちょうだい グレープフルーツのかわりに 機銃掃射された駄菓子屋で、変身ベルトを毀してしまった 子供…

魔物

* 魔女の車は燃費がわるい 煙を吐きながら走る ブレヒトのミュージカルを聴きながらハンドルを握る かの女の車はひとの魂しいを通過する そしてカーブを超えて見えなくなる たぶん、おれは語るべきじゃないのかも知れない 夏のゆらぎにやられ、水を吞みすぎ…

夏の終わり

* 陽物志向のつよい主人公について語る必要があったのは真夏 発見された死体には金塊が隠されていたという事実ともにやって来る真夏 ボートレースの舟券師がセンタープール内を見渡す午後 脂肪を蓄えた腹で、スポーツ新聞を抱えて、静かに歩く いっぽうで主…

a dead man with rainlung [part 2]

* 花が降る 桔梗が好きだった子供時代をおもうとき、葬儀屋の娘が剪定鋏を失ってしまう だからといってみな殺しにするわけにはいかない 時計職人の眼のなかの針 はじめて動きだした時間がじぶんを獲得するなかで、わたしは税官吏と出会う かれは虫垂炎を患…

a gaslighting with summer

* 愉しい対面授業も終わりです 夏の光り、あるいは突堤のひとびとが転落する海が大好きです 電子計算機が回転するデパートの屋上で、演説をつづける右翼のために水を 水を汲んで来ます やがて暗転する頭上で雲がわだかまる㋇、息子たちの誕生日を他人が祝っ…

sentimental city night

* 男の顔が心臓と酷似する夜だった カーブミラーのなかで膨張しつづけるフロント係が一瞬消えてしまう 涙みたいなビート ないもないところに回転灯だけが寂しい からだの部品を少しづつ失いながら歩くひとびとがキーパンチャーを売却するのは安全地帯の範囲…

水の夢を観た 水を呑む夢でなく、 水にまつわる夢でなく 水そのものの夢 個体が液体になったのか 自我が消失したものか ぼくにはわからない その夢のなかでは 光りと気泡だけで 魚も舟もない アルコールの陶酔感もないなかで、 ぼくは水の記憶というものに触…

a notes about an ordinary fear feeling

* 陰核を嘔吐する仲買人の群れが、天日にかけられようとしている 日曜日がしばらく来ない世界で、砂漠に水を撒くのはだれだ すべてがもてない男の妄想だと決定する冷蔵庫みたいな女たち 人生を博奕のようにスってしまった床屋が剃刀できょうを占う 花と棘 …

It's a long way back to Germany

www.youtube.com * 花が回転する 蕊が発射され、少年の顔面を貫くのは方程式の手解き 悲しみを知らない石のために水を枯らすのは箱庭の抒情と、拳 たとえばあなたのなかで芽吹く敵意にだれも気づかってやれないときに、鱗を生やしたアルコール中毒者がふりあ…

atomics season

* 飛行士の黄昏をかき分けて、青果物を売りにゆくのがぼくの弟です 鞄がゆれる 靴が跳ねる 時計職人になれなかった弟ですから 厚揚げにオクラを刺して遊ぶのはやめなさい どうか、ペパーミント・チョコレートをぼくにください 寄る辺を求め、天才にも負けな…

遠ざかる肖像たちへ

* ジム・トンプソンが殺される ファッションはキュート、でもダーティー 宇宙服で着飾ったブッシュマンが標的にされて久しいけれど、百貨店は脚韻の世界だから、製氷皿を片手にハバナを恋しがるのをだれも止められない 涙が溶接されるとき、天国の中二階で…

意識

サーカス場が解体された上津台の空き地で おれは買ったばかりのヘヴンヒルを呑む まさに天国の丘だった、 16年まえの光景 意識はいまその時代を漂う おれの心臓、 おれの手指、 銀貨と見まがうほどのワッシャが土のうえで眠るのは、 たぶん心臓の形容詞だっ…

旅の手帖/C-17

憂鬱な肉体が流動体を査問にかける 足跡を喪ったきみの婚姻を夢想しながら大陸熱に魘される夜 秘密はそれ自身が立体であると証明することになる ならばと匕首に手をかけ、 半身を凍らせる力学が未成熟な魂しいの果てで減価償却費を払えないでいる 理由のない…

ポルノ・シッピング

もし、おれを愛してくれるなら なんだってオッケーさ おれを裏切って、 使い棄てにしてもかまわない きみが通り過ぎるときを あれほど長い時間待ってたんだから だからぼくに似合う渾名をきみからもらいたいんだ 雨がいますぐやむようななまえが きっとおれ…

a song without birds

* 夜の羅針盤に星が侵入した咎で、ミートマツダの主人が逮捕されるのは、これまでぼくが撰んだもののなかで最高の悲劇 陰謀論者とカールスバーグで鯨酔したから、とても大きな鉤で吊された叔父たちが、消えかかった寄る辺を頼りにして自衛官のコスプレをし…

a something for rainlang

* それからスロットマシンが遅れて到着した どうやら帽子に凝っていたようで、ハンチングのなかで笑顔を湛えながら、「27498」と呟きながらギュンター・グラスを読みだしたので、その頭をまずは打擲、最初の海に口をつける おれは半年まえ、婦人売場で水球…

電話

ホイットマンみたいにおれは呼びかける 声よ、 夜よ、 溶接工よ、 草の葉よと 標のない夜の、裸体がひらく、ひらく、ひらく、 うごけない標的、バスキアの夜の図表よ、 立ちあがる、 勃起する男性よ、 待ちながら手を焼かれる、1千万の秋よ、もどるな でも、…

the daydreaming in a young town

* ユートピア幻想のなかで黙殺されるベールの女たちが 神をたずさえてマーケットの入り口に立つのは殺人者のいない午后 むきだしのマトンをジャンプしながら少女が店員を蹴りあげる レシピはたやすい 人造バターで肉を炒めて、バジルを添えるだけでいい 腕…

tell me, bedtime story

かの女は夢の隠語 かの女は愛の代名詞 そしてくずかかったおれを見棄ててしまう、 見殺してしまうなにかだよ、「ユカコ」 バウハウスの故郷の果てで摘み取った林檎が、 葡萄でなかったという理由だけで射殺される未来にまで かの女は侵入しようとするのか、…

32. am

愛の赦しを得られないまま大人になってしまったからか 子供時代の火花がおれに降りかかるのはたぶん諦観だ 大きくなりすぎた瓜を母が始末する 水だらいのなかの信仰、 そして懐疑の果て、 すべてがすべてらくしくあって、すべからくの誤用をふと信じる虹霓 …

mental floss

www.youtube.com * 午后9時から、地獄のモーテルで結納式を始めます 新郎は裁断機のなかで鰤の肖像を描き、新婦は米櫃のなかで猫いらずを精製します また仲人は土地の買収に失敗したために養老院の入り口で三角法を学ばれています 是非ともみなさま方におか…

音楽について

空間的な音楽が侵入する夕暮れの室 レコード・プレイヤーが落下する速度が必要だから父親を殺すのは愉しい たぶん連結部の毀れた市電がまぶしい採光のなかで乗客たちを愛撫するのに疲れてしまったから おれはとても淋しい 破壊された偶像とベーコンエッグサ…