みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

gloomy days

 

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 ないがしろにされた帽子がいじけている パンクしたはずのタイヤが蘇生する秋 右手から左手までの距離で運行される靴が交通渋滞のせいで凋んでいる 解体工事の終わり 道が霞んでしまってよく見えない 町がひるがえるところで生活が始まっている 当然のなりゆきとして、冷凍された鶏肉が羽を奪還するときがテレビのなかに放映されようとしている

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 第7レースで勝った そうおもう男の銀河は嫉妬でいっぱいだ 星が機能しない季節 やわらかな秋が透き通る午后 だれもが愉しそうに歩く新宿の表通りで、たったいま打楽器が射殺された 黒い垂直体 長いためらいのなかで欲深な手がそれを触る 植物学が発狂する場面が繰り返し映写され、試写室の壁に毛髪が付着する だのにきみはブルースのなかで融けだしてしまう

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 蟹が歩く月面 ひからびた漁村の柱と舟が分解される 顕微鏡は健全だ 病院を抜けだした男を葦が掴む 夜が掴む 星を発見したのは山本通の酒場 パン屋とバーテンはグルだったから、山分けにした現金と引き換えに暴力許可証を買った もちろん、縁日の世界で それでも蟹は漁村にはもどって来ない 病理学の天才を探して、秋の光りに失われてしまえ、だ

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 救急病棟の深夜 母が初めて産んだ子が人生に厭いている 水風呂に映った亡霊たち 詩学を学び忘れたと気づいたときにはもはや手遅れ ショーウインドウにならべられたマネキンに恋をしている 虚像に焦がれ、実像にそっぽをむく それがたったひとりの人生を歩む慣わし たぶん、おれはこのまま、この場所でなにも受け入れないで過ごすだろう だれにも求められないで過ごすだろう からっぽの酒壜におのれを投影する技術を憶えながら、

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