みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

食卓をめぐるダンス

soundcloud.com きょうは録音トラブル。シンセの音をライン録音しつつ、ヘッドホンでモニターするつもりが、ケーブルの断線でだめになった。買って1年のオーディオテクニカがだめになった。しかたなく、きょうは一曲だけミックスして終わりだ。 きのう、長篇…

黒犬の眼球

慈悲とつれあって深夜のスーパーを歩いた あるいは慈愛とつれだって萩の花をばらまいて歩いた おれたちにとっての幸運が猫のしっぽであったような、 あるいは取り残された者たちの最後のワルツであったような、 そんな心持ちで郊外を歩いたんだ まだうら若い…

ブコウスキーの朗読

for an album "Radio Bukowski" by Guilherme Lucas え? なんだって? おれは──英語がわからない。 ね、──そうだっていったろ? 聞えるか? なら水をくれ、 水でいい、 ふつうの水でいい、 炭酸水でも、 天然水でもない、 水道水に氷だ 氷はなくたっていい …

天使たちの戯れ

どうしたものか、現実がむきだしにされた食卓で、 顔の見えない相手と朝食を摂っている 現実はどうもおもすぎる おれは虚構の度合いをもっと深めたい だってそれがおれ自身の生き方だからだ もっと深いところまでうそでありつづけたい ふと手にとった短篇小…

なまえ (overwriting)

あたらしい夢のなかで眼醒めることができたなら もうきみのことを懐いださなくともいられるかも知れない でも、ひとのない13番地に立つたびにきみを懐いだす いままで読んで来た悪党たちのなまえを算えるたび じぶんのなまえがわからないくなる どうしたもの…

窓をあける

羽根を忘れて取りにもどったのは11時半で、 きみのいない室から、やはりきみのいない室へ移動した きみのいない台所で、きみの指紋のないコーヒーを淹れた 少しばかり息を吐き、そしてじぶんがひとりぼっちだという事実 赦されないことをしてしまった幾年も…

feelin' bad blues

www.youtube.com 田園のなかでブリッジミュートを鳴らしつづけていた男がふいにうごきをとめ、 河べに立ちながら永遠ともおもえる時のなかで鳥を眺めている かれが悲しみの澱みたいにおれには見える それはこの10年ものあいだ眠っていたおれのなかの慈愛みた…

夏のよるべ

かつて昭和記念公園でわたしは森忠明と歩いていた 夏のあじけない夜でしかなかった わたしは師匠と話しながら 東京都市の暑さのなかで これからの人生についてみじかい詩句をひねりだそうとしていた 先生はいった、──"帰らぬといえぬわが身の母捨記"って季語…

ぼくらが幽霊になるまで

捧げられたものと与えるものの区別がつかないままで、 ぼくは語って、きみは答えた、のはぜんぶがぜんぶ正解じゃないから なにものともつかない悪夢を乗せて亡霊がインターステイツを走る あかときのまぼろしみたいなかたちでもって説明書を読むとき、 セメ…

友だち

洗いざらしの衣類のなかで、リーバイ・パタの詩画集をひらく 女のいない男がしてやれるのはたったそれだけのこと コインランドリーが不法占拠されてしまう夢を ついさっきまで見ていたんだよ もしきみが電話をかけてくるならば、 ほんの少し孤独を信じられる…

おれが愛に気づいたとき、その愛がおれに語ったこと

www.youtube.com どこか見憶えのあるような、 なだらかな空気のなか硝酸系の毒物を蒔く 愉しそうな子供たち、大丈夫もう終わりだから 地下鉄工事の終わらない夏休み 眠れない夜をいくつもいくつも数えた、 だけれど、それ、ぜんぶ終わるから。 だから緊急脱…

たとえば夢が

たとえば夢が足にからみつく整形外科の窓まで 跳びあがるくらいの勢いでおれは此処にやって来た 緑色の玻璃が砕け散った場所までやって来た すべてがそれらしいだけのつくりもの すべてがうわべだけの世界から あなたの心臓を突き抜け やはりだれもおれを理…

たとえばぼくが鰊だったら

error code:721 コピー用紙のうらに書かれたおれの調書が 夜に発光するさまを12インチのフィルムが捉える ものがみな逆さにされた室で、 朱い内装のなかで男が、 朱いベッドのうえで泣いてる こいつはだれなんだ? やがて男の妻がやつをなだめる 「どうして…

まちがい

過去を走り去った自動車が、やがて現在へと至る道 それを眺めながら、ぼくは冬を待つ ぼくはかつて寂しかったようにいまも寂しい こんなにもあふれそうなおもいのなかで、 きみのいない街を始終徘徊してるのさ これまでの災禍、そして怒り なにもかもが一切…

夢のスケッチ〈Pt.01〉

かれは衣装入れに手を突っ込んでなにかを探している それは去年のセータかも知れないし、水色の恋かも知れない 台所では子供たちがきのうの誕生会を回想している もしかしたら、ケーキが少なすぎたのかも知れないな そうかぼやいてなにかを探している でも、…

暗がりで手を洗う

暗がりでくそをして、 暗がりで手を洗う 洗面台にも、 浴槽にも、 魂しいのおきどころが見当たらない たしかなものはタオルだけで そのタオルもひどく汚れてるのはいったい、 なぜかなのかを思索してる かつて保護房の拘束のさなか、 看護人どもの見守るまえ…

夢であることの悲しみ

おそらく、 夢であることの悲しみは だれもない室で展らいた本みたいなものだ 町の中心で戦争が始まったから、 エールとビールを開けて祝福する ひとを憎悪にかりたてるすべてが好きだ でも、これだって夢、じぶんが目醒めてるという夢 囲いと鈎を身につけた…

夜の雷光

夜にさえも見放されて 飛び起きておもう かつて惹かれた女たちを そしておれをきらった女たちを 氷上の稲妻みたいに去ってしまったなにかが おもての車のポーチを照らす いつまでもおれをはなれないかの女らのこと、 眠れないからだが求める、皮膚の安寧 あ…

家政学科

* 母なるものへのいかがわしさが あるとき納屋を焼いてしまう ぼくがほんとうに幼かったときを目指してビニールは回転する それが本音だったろうてひとりがいった なんの助けにもならない辞 母さん、ぼくはもう一度だけ会って、辞を持たずに確かめたいんだ …

* だれがいったい鍵をあけてしまったのか ひとがガラス板のある風景を過ぎるのは正体を失った11月の企み そしてためらいのなかでおれは身体の痛みに耐えている 生きる方法を見失って、夜の廊下に倒れ、そのまま夢を見る 夢はカラー、16ミリで撮影され、モノ…

white heat 

www.youtube.com * 粛清された犬どもが夜にむかって吠えている 大勢の観客が回転する場所で、花火が炸裂する 仄かに明るくなった公園で、子連れの男が反転チェストを決める 特撮ヒーローたちの抜け殻が、永遠の夏休みのなかで甦るのはきっと幻だ 最新のリマ…

誤解

充ちたれたあの夜のこと わたしについて あなたが語ったことやなんか 詩は誤解の産物に過ぎないと、 おもい知ってしまった 5月の暑い夜 充ちたれたあの夜のこと あなたについて わたしが語ったことやなんか 死は誤解の産物であって欲しい そうおもったわたし…

side order

* たとえばあのひとが、 ひとにならず、 辞そのもので あったなら、 花のために悼む 星が乱反射する路地裏で あのひとの詩を見かけた、年号のない日付 あまりにもおれはおろかだった そしてかの女を苛む棘のようにその世界に存ったから、トマトクリネの皿を…

ボストンでは禁止

* おれはたったいま、ビル風に吹かれた一枚のスリップを眺めている ここは小さなアパートメントの最上階 地上ではひとりの男が戦闘機めがけてジャンプしている 声はここにない 中枢都市の神経を逆なでするような陽物が痙攣のなかでひどく気持ちいい 石油が…

終わりのビート──田中修子へ

かの女が死んでしまうのをおれはどっかで予期してたんじゃないか かの女の人生にちらつく死臭、強姦、家庭での暴力、そして自傷行為、自殺未遂 いろんなものがおれの通りを走っては、工事現場に激突する、 そして瞑目するなかでいちばん終わりに観たものをだ…

radio days

* 花の懶惰が咲き乱れる そんなに美しくていいのかと呼びかける 回転草とともに去る一匹の禽獣が薄明るいほどろのなかで、輝きながら消滅する 樹液を通した世界があまりにも脆く、突き刺さる森はあるとき、スローモーションで顔を変える 一匙の塩と、花びら…

青い芝

青い芝は警告だ おまえのうしろに潜むものへの静かなる警告だ たとえばおまえがボールを見喪ったとき、 キャッチャーミットがからぶりして、 おまえはおまえ自身を忘れてしまう そしておまえのなかで芽吹くものにおまえは敗れる そして長い休眠の時間をテラ…

喪失

* 星の気まぐれのせいか、頭痛がやまない 方位を失った夜がおれのなかで疼く回数を数えつづける なまえのない花がフルオートで発射された 季節はわからない 地下鉄にゆられる脊髄がいまにも弾けそうだという理由で抜き取られる 熱病に罹った群れが朝を待ち…

帰途

* 三沢では雨すらも言語になる 帰途を失ったひとがレンタルビデオの駐車場に立つ 傘がない秋口にはからっぽのボトルがよく似合う したたかに酔い、そして瞑目するあいだ、すべての鳥が、カチガラスになったような錯覚をした それは10月の暑い夜 冷房装置の…

10月の暑い夜

* ブラジルから来た少年が通りで撃ち殺される 被疑者は嘆きの壁で、沈黙を貫いている 取調室は熱で彎曲していて、とても歪だ キュビズムが侵入した形跡もないのに、シュールレアリズムが混入したわけもないのに、ただ一輪の花が中央に活けられている レモン…