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映画が終わってしまった 夏の情景設定がうまくいかない 配役を忘れたスクリプターが聞き覚えのない歌を口遊む 律動する心臓の音楽 サティとフォーレをちょうだい グレープフルーツのかわりに 機銃掃射された駄菓子屋で、変身ベルトを毀してしまった 子供たちが、まだ殺されていない子供たちが、笛を吹く夜半 水を呑む男が水によって崩壊する概論が、わたしの手のなかでいまでも、たしかに存在している
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作品について語れることなんかない 映画が終わってしまった 息も絶えだえに走る男と、かれを裏切った女とが液状になって壜詰めにされている 映像は死んだ シナリオが炎上する湖畔にて、赤いフォルクスワーゲンが無人のままにされている カエサルと時計の関係 歴史を創作する贋教授の万年筆がとまらない夜 変身できない悲しみのなかで、おれは地理の教科書をめくりながら、だれかの妊娠を恐怖している
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できるだけ早いほうがいい 映画が終わってしまった ジュリエットを呼ぶ 野生の血が目覚めようとする朝、飛行機が離陸する 長い夢もいつか終わる そして階段を最後まで登るとき、たったひとりでぼくは規律する もうだれもいないから もうだれにも求められないから 科白はすべて棄ててしまった 決まりごとをぜんぶ否定した 詩歌がすべて排撃される光景を求めて、長い一本道を逆走しつづけるぼくがいるんだ 変身!
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