みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

魔物

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 魔女の車は燃費がわるい 煙を吐きながら走る ブレヒトのミュージカルを聴きながらハンドルを握る かの女の車はひとの魂しいを通過する そしてカーブを超えて見えなくなる たぶん、おれは語るべきじゃないのかも知れない 夏のゆらぎにやられ、水を吞みすぎて、張力を失ったからだが、天体妄想のなかで死にかけているよ 助けてくれ、おれの痛みを連れ去ってくれる通勤急行を教えてくれ、まだ生きる価値があるのなら、もういちど手をふってくれ いまだ判別できない惑星を見つけた かれはきっと酒がきらいだ だからおれは酔いどれる 天使の微笑みの最後の、1行のために

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 海で哲学しないやつがあるかとマヤコフスキーはいった 暗殺者とテニスに興じる銀髪の男が、ふいに落としたグラスにじぶんを見出して卒倒する夕べ いまだ発見を免れたポルノが暗室でからだをひらく それでも数式はかけがいのないものだから おれは濃度50%のウォッカを呑みながら、暁が来るのを待っている 砂漠の恋人たちと、豚の翅と、仲買人の関心を得るために、逆さになった時間との婚姻を決定し、まだここに立っている

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 カットされたフィルムが恨めしく光る朝 おれはからだをわるくして横になる 水色の革命 信者と聖者と武装集団が照明弾の炸裂とともに愛撫し合う だれもいない空港、閉鎖された扉に集うひとびとが、うっすらとした桃色のマトンをかかげ、焚火のまえで演説している 戸籍を失ったかげが、いまにも破裂しそうだから、処刑の準備をはじめているのをおれは中継で見ている もうここにはいられない もうじぶんに我慢できない そんな暑さだ だれかが弾いたボールをおれは受け取る そしてディランよりもさみしい歌を求めてカントリーブルースのミックス・リストを再生し始めるんだよ

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