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銃後には雨が似合うといい洩らす少女のうなじ白く光りぬ
ぬばたまのひとみのなかをちりぢりになっていつしか亡命者のような雨降る
意味のないなみだが流れながれ去るついに来なかった再会のとき
たずさえて鞄のなかにゆられたる成熟以前の詩人の種子は
こころあれば教えて欲しい花のむくろをだれが着るかを
くずれつつ街区取り残され海のふたたび満ちるを聴く
わがうちを駈けて帰らん一条のなみだのようださらばサラトガ
まだ知らない、濡れた唇、雨模様、下の句のない男の俳句
とき遙か経てはふたたび花粉となり尿となり褥となる春のかぜかな
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わかれうた、またわかれうた、うたうひとみな去るを待つ
いまさらに愛おしいとはいえなくてただ手のひらの睫毛見つめる
咎のあるうしろ姿かゆうぐれの橋の袂に草臥れている
経験とも意識とも現在ともつかぬまま踊るおれの皿
数えていたんだろう、たぶんその声をわかつことはできないから
子供らがまた争いの支度をしてる、ねえお母さん朝ご飯まだ?
わからない、っていう顔してもどりみちもはやみえない春霞濃く
それがぜんぶだっていうひとがきらい夏になったら消えてしまえばいい
みずからのかげを厭うかすかなる振動のなかに立ったままで
みどりいろなす水の流れよかえすがえすぼくの足許に来てやまず
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だったらどうだっていうんだろうかげがきみのかおをしてやってくる
それなりになりたいなんてかぼかいてぼくはいつまできみを憶える?
たしかなのはぼくがもう終わりだということバナナの束遠くに放る
ひとの名を忘れていつも気まずいとおもう喫煙室のもや
だれとでも仲良くありぬ遠景をおもいすがって消えるひとりか
ためいきばかりすぎる午后かななぜだろうきみは質問するぼくは問いかけず
なれればいいぼくもちからあるひとに積み荷を零すあわれなるぼく
木箱くずす夕べの痛みわれわれはただひとりなる生贄を求むる
水とともに葬れるぼく腕力のなきをただただ悔やむのみかな
ひかりさす大東京のおもかげを光りのなかにとどめたりけり
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遠ざかるつもりだって?──甘えんなよ、東京から逃げつづけて
さかさまに産まれたる憂鬱の黒かみのなかひとりうずくまる
それがどうしたっていうんだい、きみがいままでかぜだったはず
廃都になっちまえばいいんだ、ネオ東京なんかできないままに
ひとりぼっちでぼくはだれかを待ちわびるでもそのままに月のわれめだ
なにも知らないままだったらよかったんだからもういいんだよ
だからってきみがぼくの善人になるはずもなく朝の外套の襞に過ぎ去る
どうだっていい? きみがきみを知るまえにすべてが消えてしまうまま
もう生きていたくない・ぼくは足手まといにすぎない・真昼
たとえればいきものなかにいて一生分の手紙を貰う
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滅びつつありまた蘇りつつありぼくという一人称の果てのかずかず
女の子ってよくわからない旅の終わりほほえむ声を聴きてなぐさむ
ねじ曲がる都市太平洋に散乱するきらきらとしたがらすの曲線
喪いたくない失いたくないとくりかえしながら最後の匙を投げて捧げる
なんだってこんな現実にいるだよ気分はもう戦争じゃないか
キマイラのような笑みして沐浴する・きみはもう死ねない
だってもう少しすればもどることできる消えることもできる電信柱
おとを発てちゃだめだよふるえてるのはきみのせいだ柞畑
戦車でいっぱいの都市だ、濡れた歩道橋からきみをいま見ている
たわむれることもなくただ立っている鉛みたいな銃後の水を
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後記:最近はずっと大友克洋の「AKIRA」を読んでいた。ほかの短篇・中篇は読んでいたのに代表作はどうしたわけか、オアヅケだった。はじめて読んでみてやはりその描写力に圧巻されたし、映画版とのちがいもおもしろかった。短歌が終わり次第、絵にもどりたい。漫画を読んでいて絵に対する熱情が湧いてくるのが愉しかった。いずれ歌集をだしたら、しばらく文藝とは、はなれたい。