みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

灰語

 

 
 しらたきのように両手をすり抜けるきのうのような経験があって、


 ゆくえなど知らぬふりしてものはみな遠のくばかり秋のはじまり


 両足を放りだしては炎天のむこうの街のまぼろしばかり


 やがて灰となるすべての愛をムンクに添えて歩くゆうぐれ


 貨車眠る夜のほどろの操車場のゆくあてのない灯火ばかり 


 弟を欲すといいて暗がりに牡蠣も青ばむ夜とならしむ


 暮れなずむ群れたちわれの幾千の夢分かって無私に消えたり


 犬嫁ぐ――おしろい刷毛の異邦人咳きのなかでふと立ち止まる


 莨火に燃ゆる歴史よ人生はかくもみじかき両切りの断面


 灰は灰、土は土へと還りゆく初恋地獄の長き審判


 花まんぢ組みしだかれて散ってゆく瀆神足れるおれのまなざし


 くちなしの花の企みひと斬りと呼ばれてひさし渡哲也よ


 都市炎上する・まもなくこの舟を棄てて・夢を叫べ


 すがるものなきゆえひとりうずくまる灰語の辞書のひとひらの希み