みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

駈け抜ける原野すらも、もはやなくて、

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 陽だまりに捧ぐものなしひとびとの顔みなすべて意味などなくて


 井戸沈む家系図燃えるひとときに壜詰めの胎児ひとり目醒める 


 喫烟と会話のあいま中空をゆくたそがれの雲のかなしみは


 雲がゆく列車のかたちをしてどうしてだ、ぼくを拒むのは?


 いちがつも容れものに過ぎず、ひとりのみの年越しに疼くこともあって


 海分かつドックよかつてある被災のあとのクレーンのみどり


 根菜に充たされる胃よだいこんの重さにばかり悦ぶなかれ


 いまはもうだれもいないところで桃の木が桃の木らしく立っていたりぬ


 あっ、みどりいろの男が死んでやがて散らばってゆく冬の公園


 駈け抜ける原野もなくて都市かげに暮れる人生きみにあげたい


 意味より逃れ、納屋の奥へと進むときいっぽんの灯しは言語たりえるか


 くるぶしに靴下ひっかけてただひとり台所でじゃがいも茹でる


 終戦をおもいわずらうこともなく妹の墓見る十二の祖父は


 メークインを買うはずだった商店が閉まってていまも茫洋とするわれ


 しなびたる茄子の憂鬱きみがまだいたころのセータを着たる


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