みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

永訣のおもざし

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 やがてみな花になるのか鳥になるかはかるか機影の翳むところにて


 森しずかなり木の畝にどうしていまもうずくまっているのか


 いつまでも青傘のなかでかくれんぼしてるふたりの猫が


 ひとりのみかくれ莨のかげがある雨の降る港その端にいて

 
 牛殺しの花がひらいたひらいたとだれにいいかけることもなく去り


 かつてまだ有情群類と呼ばれてた未分化のひときょう成熟する


 永訣のおもざしにふと時雨立ちみな別れという一語を忘する


 ひまわりも嗤っているか作業着の端のホックが錆びついている


 遠ざかる黄色いヤッケ女たち夏という語の対義を謳う


 すずしけれ夜のほどろに吹くかぜのそのまたむこうで車が停まる


   *


 光りのない波のむこうで8月が浮かびあがった第1突堤


 子供らの駈け去るかげ差して夕立の色素のひとつ落ちていたりぬ


 花に病むまだ6月の風景が夜行列車にゆられさ迷う


 硯泣くような気がして墨をとめ、わずかなそれを指で弄くる


 もう秋がまるで近くにあるようでふと立ちあがる軽量係は


 ならず色とまらぬ色のおもいすら掻き消してゆく8月の雨


 きのうまでおもいでだったはずのきみ立ち現れた秋の美苦笑


 それまでとおもいながらか雪の跡手袋だけが手をふっている


 ぼくがまだ少年だする仮説書く黄葉のうらの枯れ色の主

 
 落ちる葉のうらもおもても知っているきみが少女だという根拠


   *
 
 
 かりそめの顔なやバナナ・ケース積むわれはだれやとおもういちじつ


 夜が降る9月は遊ぶひとりのみ遊具を跨ぐとうめいな秋


 閂の黙するままに閉じられて箒のかげにすがる木枯らし


 ポスト・パンクするせつなさよやがてみな幾千の雪なればよい

 
 保冷庫の秋は7月廃棄する黒いバナナの凾がいっぱい
 

 また冬が 声もかけずに 訪れる 詩をかけど はらからもおらず  


 空想癖の飛び立つせつな秋がいま通行証を買ってきました


 おれの脳(なづき)翅を生やして飛ぶ夢をまたも見てしまったよ秋来る


 欠けボタンしかたないさと呟いて海を見ている窃視症かな


 呼び声もないまま河に立っているぼくが存るという検証


   *

 now, now, now!/かきかけの詩を残して旅をゆくまだいっぴきの青い幼虫


 ほらそこにいるだろ?──かげに擬態して転がってる帽子ひとつが


 潮匂う海岸線のゆくところ憂鬱なんていうんじゃないよ


 埋葬のときをおもって静かなる廚に立つはおもてないおとこたち


 髪をただ翫んでる女の子舞いあがるときをいまだ知らない


 「光りについて考えてみる」12月、誘導灯の灯りに惑う 
 

 それほどのおもいもなくて悲しめず遠ざかるきみのおもいでばかり

 
 駈けていく女の子たち秋の日の選挙ポスターいちまいやぶる


 代議士の顔のうつろな笑みばかり貼られてしまう旧街道の夕べ


 みなしごのような手袋落ちている冬の通りの貧しいばかり


 それでなおかの女はぼくを赦さない花の一輪剪って葬る 


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