みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

群青《今月の歌篇ⅱ》

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 つらいことも淡いことで中和できればいいと水源の水脈猶も逆らう


 いくつもの葡萄の繁る高みよりわれにふりかかる怒りの果肉


 ただおもうことの恥じらい遠泳の犬のいっぴき波に消えゆく


 定めより欲しかりし永久よトラクター赤き真午のそのまままにゐて


 空砲となりぬすべての敵意すら友となりゆく土地のさまざま


 地獄にて父の手紙を読むひとよものみななべて腐るゆうぐれ


 血を分けぬものみなすべて意味を為さずただ糖蜜に群らがるだけの群れとならんか


 陽をばらすバラスのような鈍色に感動してるという偽り


 ドラム缶のひざかりにただ落ちぬ桜の花のわずかな愁い


 死ぬばかり生きるばかりとスクリーンの貌々に過ぎるたくさんの色


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 過ぎて猶きみのことだから大丈夫と繰り返していう塀のうえにて


 オリオンのいっぴきさえも手のなかにあらんかなぜにとどまる列車


 河を渡る、河を渡る、わずかひとつの願いの東京


 ラリホーと叫ぶ列車の連結部惨めなるわが青年たちに捧ぐ歌在って


 警笛のように女が立っている──山麓鉄路の緑の山路


 濁る声または工場《こうば》の跡地にてあかるなってゆくその裸体は


 くれないのまんこひらめく国境の亡命の眼に逆巻く色と


 帰る道なきままひとりわがままのほとりの果てに羽をたたむか


 〈眼を醒ませという声が聞え〉――たずさえる剣すらなく立てり


 でたらめなおとなになっていまぼくは桔梗の花とともに運ばる


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 みずからを青い鳥にて運ばれる酩酊主義者の憂いは青か


 過ぎ去ってゆくものすべてなにを問う声のなきまま耳ばかり研ぎ


 いまさらに遅すぎることばかりありそを宿命と呼ぶはたわむれ


 凪ひとつ機微の枝葉に吊される質屋以前のはつものばかり


 牛のバサ売りたる店よ呼吸するということの意味を秤に掛ける


 意味、だれが望むものかと長からず死というものの光景おもう


 わが明日のなにものにもなれずたったいま芽吹く草にて嘔吐せしめる


 あえかなる荒野の白夜横たわる精神療養所の窓


 胡桃すらスパイの隠語すべからく死んでしかるべしものら


 遮断機が降りつつあって少女すらその例外にならずと告げる音


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 ねじれたき水管土のなかにあり聖少年を待つ朝かな


 まったくの赤の他人の「読書論」鶏胸肉とともに煮る夕べ


 サラトガにわが欲望の燃えあぐるそのひと日にて目醒むるきみは


 遺産なき祖父母の故郷、西脇の、馬場の跡にて芽吹くいななき


 ひとりだって寂しいとはおもわないだってきみのかげが柘榴を孕んでるのだから


 つまらないことに過古ばかりがおれを囲む昼夜問わない他人のまなこ


 人形の家もしずかに燃えあぐる火事いつも果実の匂いして


 手斧すら黙する夕べ父なるをすべて跨いであすがはじめる


 ぼくが知ったかぶりをしてきみが咎める野望を見たい


 いずれかの死におそろいの化粧して踊れるような末期をしたい


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 薔薇卍砂のむこうにただ消えるきみの潮騒少しうるさい

 
 裏切りの季節はにかむ少女らの滾滾と湧きでる悪意


 つながれることもあってかわが空に軽飛行機の四散するまで


 葉を嘗める苜蓿の少女らのいつか鬱々としたかえりみち


 父踊る愛なき男ひとりの窓を見下ろすダンス教室


 まぼろしの葉の満る土地迎えつつすべてに厭いて母は眠らん


 中学3年生の悪夢をいまだ見る、たえまないおれの憾みよ


 ソーダ水呑めばひととき憩えるか酒のない日のたわむれたれば


 あしたまだきみがいるなら草の葉を読んでみせよう・アメリカの歌


 生きていくことしかできない・葉桜の・合い鍵ひとつ・落ちてしまった


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