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この闇がぼくに赦せるものをみな運び揚げてはゆれる舟たち
夏来る山脈遠くかすみつつ胸のなかにて熟れる韜晦
さようなら彼方のひとよいつの日か花の匂いに眼醒めるときは
窓際の一羽のからす ほんとうは隠しごとなどしたくはなかった
たわむれた過去のおもいで幾度も葡萄の房をひと掴みする
うごかない禽獣 はるか祖国にて麦藁帽子が飛んでゆくなり
だれもいない室でだれかが泣いているという通報があり
夜つづく 交通情報不通なり たったひとつの卵が割れた
老嬢のはだえのうえを蟻が這う 午後の憂愁暑さを連れる
死がとどくまでの時間を計るため、手巻き時計をいま巻いてゐる
やがて死がわれを癒やすか やすらかな棺のなかに花束ひとつ
妹が夢に帰りてわれを残す 墓碑銘にわずかなる疵
シラブルを落として来る夏の日よだれのなまえを逆さに綴る
鳩どもの羽がひらめくとき遙か沈む湖畔の嵐が逆る
子鼠の標本 だれが愛しいと告白せずにいられぬ夜よ
不在票投函さるる昼の雨 ぼくが存在しないという証明
渚にてピアノが燃ゆる 少年のときを呼びたきわれの妄想
空中ブランコに乗った勇敢な青年たちの飢えを歩くわれの夢
ひとりずついなくなりたり劇場にコラール響くレイトショーかな
たったひとりのわれを失う金曜の夜の祭りの群衆のなか
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