みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

ニューオーリンズ

 

 ニューオーリンズの日々についてブコウスキーは語りたがらない
 あるいは語るべきものがあまりないのか
 5セントの棒つきキャンディを嘗め
 空腹を抱え
 書くためだけの時間を求める 
 あるいは子供たちに追われて、
 酒屋のなかへと逃げ込む
 果たしてすべてはおもいだされたのか

 ニューオーリンズの子供たちは叫んだ
 あの気味のわるいやろうをやっつけろ!
 いつもキャディを買う酒屋に隠れてかれはどうにか生き延びた
 そして子供たちはいなくってかれはいつもように鳩を見つめた
 フランス風のなまえの鳩を
 川があって
 そのさきは入り江
 雲がのろのろとうごいていくさきは
 シーザーが刺されたころから死んだっきり
 ニューオーリンズはかれにとっての悔しさなのか
 岸のむこうのひとかげは
 だれもかも水死人で
 かれらが坐るのは 
 ブコウスキーの気に入りのベンチ
 やつらと坐って
 やつらの酒を呑む