夜にさえも見放されて
飛び起きておもう
かつて惹かれた女たちを
そしておれをきらった女たちを
氷上の稲妻みたいに去ってしまったなにかが
おもての車のポーチを照らす
いつまでもおれをはなれないかの女らのこと、
眠れないからだが求める、皮膚の安寧
あるいは空腹の技法かなにか、
ともかく道のわからない時間があまりにも多すぎて、
じぶんの痛みさえ、遠い過去みたいにインターの出口をさ迷ってる
なにしろ、この時間には終わりというものがないから、
去ってゆく車の窓が怪しく光りだす
過去の高速がすべてをかつて見た夢と融和する
まるでその夢のなかで、夢であることを悟ってしまったみたいに
高橋恭司が撮ったブコウスキーのポートレイトを懐いだす
何年もまえから棚にある写真集が時折、おれの手のなかにある
晩年のかれの顔の皺から、おれの手の皺に至るまで、
発光する歳月がおれたちを通り過ぎたものだが、
かれは栄光を勝ち取って、
おれは負けつづけ、
やがて稲妻に打たれる
男というものは母親から女たちへの接し方を憶えるとさっき読んだ
それならばおれは失寵と疎外と黙殺を学んだ
新神戸駅が驟雨のなかに建ってる
この詩を書くために駅まで歩き、
そして帰ってきたおれには、
おれのような男にふさわしい死をおもうことの、
ほのかな愉しさだけが千年の雷みたいに
窓を照らしつづける、
──黙れ。