みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

ブルームーンの流れる河

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 ブルームーンの流れる河は、あなたのポケットのなか 粉末ジュースを呑みすぎた子供時代のような夜がそっと手をふって花になる朝 韻頭を失った詩がどこまでも誘うからか、スカートが皮膚を縫う 渓声がする水の涸れた森で、ふいに手を展ばしたところが宝箱だったせいか、あなたが心臓を引き抜くと、 

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 眠り草の匂いで、眼を醒ます男がいる 崖下から都市を望む天体を頭上にして、五体投身のさなか、眼をひらく女がいる びくともしないワンピース 鉄骨づくりの襞が真夜中に疼き始め、胞状奇胎と診断されたのは、いまから20年もさきのことで、かれらが歩いた道には家が建っている おかしなことに虻が、

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 遊びつかれた大人たちが、不燃物の集積所で折り重なっている 肉の強度がアクリルに反応して、萌黄のなかでクロスすると、大きめのトンテキがパセリともに登場し、怪盗ジゴバのマネをしてテントのなかへと子供を攫うのは、透視図法のほんの手ほどき 清められた室で水を呑んだら、星が光って合図して、

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 犬とベビーチーズの関係がどうしても不完全だ 構図がうまくとれない こんなときはどうしてもかの女のなまえを口にする すでに記述の終わった舗道のうえを黄金が歩くみたいになればいいにと祈りながら運動会が始まらないのをかの女のせいにした いくつもの改稿 過ぎ去った接続語がつまらなそうに、

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 幸福論が逃亡した夜がおれのなかで伝説のように枯れてしまう 競技用のトラックを歩きながら、バイカーたちが 世界の終わりをみずから創りだすのを見ていた なぜ唇は青いんだ 青果物の検品中に男が、自身の皮をむいてしまった なかには蜜柑がつまっていた たぶん、映画の仕草があまりに真実で、 

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 ブルームーンの流れる河は、駅まえで終わる みんなで撰んだ神がひとり気に喰わないといい、シクラメンを植えるひと あるいは壜を撒くひと すべて淋しく解れゆく夜ならいいとかぼやき、星を待つひと ぼくは、と駅員は語りかける 「どうせなら、すべて焼いてきみを犯したい」 舌が膨張するまで待て!

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