みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

天使たちの戯れ

 


 どうしたものか、現実がむきだしにされた食卓で、
 顔の見えない相手と朝食を摂っている
 現実はどうもおもすぎる
 おれは虚構の度合いをもっと深めたい
 だってそれがおれ自身の生き方だからだ
 もっと深いところまでうそでありつづけたい
 ふと手にとった短篇小説を窓のむこうに落とした
 けっきょくおれにできるのは手放すか増やしつづけること
 きのう拾った猫はもういない
 この場が好かなかったみたいで
 取り残された毛布はまだ温かいという事実
 なにもかもためらいのなかでしか機能しない事実
 人語を忘れてけものになりたい
 過去を殺して生き直したい
 あるいはそういった願いすらも抹殺するなにかを
 おれは探してさ迷っているのか
 ああ、作業所の時間だ
 おれは詩を放擲する
 そして立ちあがる
 見えない顔はじつはきみの姿で、
 カソリック教会へと祈りにゆくんだ
 それをおれは止められない
 でも祈りが、天使たちの戯れでしかないという現実を
 おれは心のなかに書き留めて上着を着る
 じゃあ、おれはいくよ
 いつも通りの医者に通って、
 それから1時間の作業だ
 仔牛とともに眠る幻想のなかで
 おれはなにもかもを見抜いてしまう
 それは長い永訣のなかで砂糖菓子をわって、
 片方を渡すようなさみしさだ
 おれが求めたきみがいない道の半ばで、
 とても鋭いなにかががぼくの鼻をかすめたとき、
 決まった動作を厭うあまり、おれは路上に伏せる
 そして集まって来たひとたちにむかって、
 「おれに触るな!」と叫び、あたらしい眠りのなかで、
 肩にかけられた手と手にむかって、
 きみの幸運をただ祈ってみたかったんだよ。