みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

長い坑

 


 おれときみが理解し得ないところでずっと坑を掘ってる
 他者とはわかり合えないものの、集合体
 靴篦を忘れる、調理器を抛る
 だれとも共有されない時間だけが増え、
 そのあいまにだれかの声を聴きたくなる
 けれどなにも通って来ない壁があるだけで
 きっとそれは仕舞われたまんまの五月人形みたいなものだ
 雨季は過ぎた、だれよりも早く立ち去っていき、
 ツルハシの重さが、なんとなく手に余るころ、
 黄色い室が改装され、ひとが死ぬ
 おもいはぐれた群れのなかで、
 たったひとりでいることに厭き、
 それでも、だれにも手を繋いでもらえないとき、
 子供みたいに叫ぶんだ
 「ぼくを見棄てないで、
  ぼくをおきざりにしないで」と
 そうはいっても、おれたちはひとりでに生き、そしてくたばる
 カナリアの啼くところにはたどり着けそうにはない
 ジェーン・バーキンが唄う
 井上陽水のカヴァーを
 たぶん、いくらか幻惑を与えてくれる存在を頼って、
 みずからの弱さを幾度も露出する変態野郎さ
 物語のキー・ポイントで蘇る過古、
 そして通り過ぎたはずのひとが、
 いまでもここにいて、おれを見下ろしてるという仮説、
 固有名詞が融解するだろう、地点に於いていまは、
 けっきょくのなりゆきできみを見限って、
 価値の転倒を謀るしか、
 ルサンチマンの処理法がわからないでいる
 どうして、
 マルクスよりもマルクスらしく、
 どうして、
 サルトルよりもサルトルらしいきみ
 おれのなかで蒸留された嫉みのなかにまだ
 きみを愛したいというおもいがいまだに残ってるのはなぜだ?