あたらしい夢のなかで眼醒めることができたなら
もうきみのことを懐いださなくともいられるかも知れない
でも、ひとのない13番地に立つたびにきみを懐いだす
いままで読んで来た悪党たちのなまえを算えるたび
じぶんのなまえがわからないくなる
どうしたものかきみとは
まともに話すこともできなかった
それまでの経験がまるでうそでしかなかったかのようにきみに牙を剥き、
そしてそれまであったほんのわずかな望みさえ手放してしまったんだから
もはやもどり道のないところできみのなまえに疼きつづける、
きみのことばに疼きつづける、
きみがきみだけがほんとうの疵痕
あとはほんの失敗、ささやかな失態
なにも失ってなどいないふりをつづける憐れな男
3階の室まで連れ戻してくれる伝令をいまも待っている
はじめっからまちがっていた人生の意味、そして解釈
憎しみだけがほんとうであとはあざけりだけだとおもっていたころ
あれからもうひとまわりしていまだわたしはわたしを赦せない
ふるい帽子に晩年と渾名して、貌を隠して過ごしたい
なにもかも忘れて失踪者として死にたい
ここまでやって来た虚無の所業、
表現も生活もまともじゃなかったんだ
行き倒れた道を、生き直したい
そうおもうのもつかのま、
地下鉄が到着して、
そいつに乗り込むんだ
無名の一市民として、
そして列にならんで検品される
終わらない恐怖や、
過去への執着なんかと一緒くたにされ、
わたしはまたしてもきみのかげを追いかける
わたしはきみを上書きしたい
けれどもそれに似合った存在がいない
いや知らないだけでどっかにいるはずだ
でもそれに出会うのはとても怖ろしいことで、
とりあえずは長い悪友──アルコールを使って、
静かな眠りへと階を降りることにしよう、
きみにさよなら、
きみにありがとう。