みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

窓をあける

 


 羽根を忘れて取りにもどったのは11時半で、
 きみのいない室から、やはりきみのいない室へ移動した
 きみのいない台所で、きみの指紋のないコーヒーを淹れた
 少しばかり息を吐き、そしてじぶんがひとりぼっちだという事実
 赦されないことをしてしまった幾年もの時間
 こんな日にかぎって身動きがとれない
 おれの射程のなかにはもうきみがいない
 だのにこうしてぶざまにきみをおもいつづける、おれをきみは笑ってくれるだろうか
 なにもかもが見えなくなった室で、病に魘されたじぶんを見つめる
 こいつには希望も展望もない、ただただ老いてしまうことに恐怖しながら、
 おなじステップのなかで腐ってしまうだけなんだ
 もう終わりだ、終わりにしよう
 きみのいない世界から飛び降りて死ぬ
 それだけがおれの望みなんだろう
 いくつかの絵を焼いた
 水の洩れた鍋が音を立てて消える
 おもうにすべてにとって都合のよい死はないんだ
 残された物質には申し訳がない
 でもここまでやって来て、
 おれはほんとうに幸せだった
 おれは少しでもきみを知れた
 おなじように少しだけきみに伝えた
 わるかったのは精神とタイミングだった
 もしもあのときに──そうおもうことはある
 だけどもはや意味をなさない
 おれは羽根を棄てて窓をあける
 いつものような世界があって、それはとても幻滅させる
 いつものようにきみのいない場所でかざむきのちがいもわからない
 それでもここまでやって来たんだ、──それを赦そう
 そしてなにごともないようにおれのいない世界へと飛び立つことにしたんだ。