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旅に酔うわれの頭蓋を飛びながら夏を知らせる雲の分裂
寂しさを指折りかぞえ駅まえの自販機のみに告げる憂愁
苦悩とは愚者の涙か森に立つ告白以前の影法師たち
雨がいう──おまえは隠者 かたわらに水を抱えて眠る仔牛よ
わが魂の未明を照らす犀おれば祈りのすべて忘れ去るかな
堤にて吼える仔犬よきょうはまだ月が見えない夜の始まり
しめ鯖の腐る真昼よ夏がまたおはようするんだ樹木のなかで
煉瓦焼も眠れる夜よ教会の尖塔に屯する死者がいる
墓地を歩く墓地を歩む われの墓標なきことへの恐怖もあり
夢に棲む だれかがいったさよならがきょうも聞える雨季の終わりは
この真昼 この悔恨をもてあますおれの天使をみな撃ち殺せ
やがてまたきみの刹那を満たさんとひとり演ずる一幕劇や
闇が舞うマントのなかで急行の新開行きが参ります
史を読む女のひとり席を立つ やがて始まる戦のために
ここでまた逢いましょうとはいえはしないぼくの不在を知らしめるため
長夢のなかでひとりの母に告ぐ「おまえなんかにわかってたまるか」
輝きは祈りのなかにあるものとかの女は告げる滴る電話
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