みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

さみだれ

 

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 人間という病いは癒えず真夜中の修辞のひとついま見失う

 
 雨季来たり帽子の比喩を探さんとするに紫陽花暗し

 
 道わずか残して来たり夕月のもっとも高き空を見上ぐる

 
 わが過去の贖い終えていつの世か役目を終えて退場するか

 
 なにもかもさかりを過ぎて萎れゆく鰥夫という入れ物に安住なし

 
 束の間の休息足りぬ駅舎にて列車のひとつ乗り逃すこと

 
 死のはざま一瞬光る葉桜の嘆きの声を聴くふりをする

 
 午後遅く不在通知を受け取ってわが存在の根拠失う

 
 みずからの葬列ありて懐かしむかつて遊んだ英雄たちを

 
 救抜もなくてひとりの食卓に蝿が飛び交う午前10時よ

 
 経験も物語に数えたる男のなかの宿命のため

 
 それでまた滅びつつある人生のト書きばかりを読み返したり


 ひと知れず遊びを学ぶ中空の立方体のささやきのなか


 だれしもが神と決別するなかで戸惑いながら裁かるるわれ


 五月雨のなかにわずかな顔がありひとり眺むる昼餉のあとは
 

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