みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

酸模の茎 

 

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 連動する地獄の筵たなびいていままさに詠まれる夕べ


 やらず至らず試みずやがて溶けゆく意志たちのいま


 水色の水充ちたればささやかな宴をともす深夜の酒席


 心あらずも美しくあれ如雨露の水が降りそそぐごと


 詩画集のなかに埋もれてゆく景色まだ一切を諦められず


 地獄絵の鬼が泣いたらかくれんぼしてはいまだに見つからぬわれ


 柿腐る 暮れる地の糧まぎれたる夕凪ばかりわれは眺むる


 梨を切るわが手は昏しいつの日か告白以前の愛を語りぬ


 全裸なる青年像が立ちすくむ兵庫県庁跡の夕やみ


 願うものなきまま訪うひとりのみ五月の夜の二宮神社


 なんだっていい 犬笛の聞えないところまでいきましょう


 だれをだれをだれを求めればいいのでしょう 酸模の茎を齧りたいときは


 大父に拒まれて猶邂逅を求めてやまず遠き西脇


 Your all I need と繰り返す いまだ振り切れぬ片恋なら


 それがもしや足許で藻掻いてる蝶ならば救え


 猫を抱く少年のわれ 秘密のなかで愛撫する夜


 車すら棺の隠語 カリーナの嫉妬の一語いま燃えさかる


 写真屋に石を預ける遠景として漁村の真昼匿いながら


 「愉しい会話術」読み耽る話す相手もいない寄る辺に


 小蠅飛ぶ悲歌を学ばんとする空間に羽音寂し


 やがてみな遠くなりたり老いたれて植物図鑑に記録されたし


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