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たそがれに語ることなしあしたには忘れてしまう空気の色も
波踊る 真午の月のおもかげがわずかに残る水のしぶきよ
砂のような日常つづく意味のない標語の幾多ならぶ路上よ
友なくば花を植わえというきみのまなこのなかにわれはあらずや
星の降る夜はありしや金色の糸巻き鳴れりねごとのごとく
雨を待つひと日は室のくらがりにわれは眠れる幼子のごと
経験は莇の色の万華鏡 回転しつつ未来を孕む
プラスチック甘噛みをする子供らがやがて膨張する暑さ
代理人不在の朝よ訴状にて悪魔の業を援用したり
いまさらに恋しくおもうひともなく模型飛行機片手に駈ける
ときはるか光りのなかに滲むころわれまたひとり竈を点す
死はいまもわれに宿れり野生馬の鬣ゆれる丘ぞ歩めば
流れてはながれ過ぎゆくかたわれの草の葉さえも愛しくおもう
涕雲ゆるる地平に鳥還すかつてのごとく羽搏きやまず
曳く舟にきみが消えたといいつのる落日ちかき夏のたわむれ
望みたる世界はついぞ訪れずランナーたちの胸筋ゆるる
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