みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

野焼き

 

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 そしてまた去りゆくひとりかたわらに野良すらおらず藪を抜けたり


 夕やみにとける仕草よわれらいま互いの腕を掴みそこねる


 世はなべて悲しい光り笑みながらやがて散りゆく野辺送りかな


 野焼きする意識の流れしたためる夏の化身の夜の呼び声


 流れすら朝のまじない眼醒めては夢の小舟を放つ潮騒


 あきらめてあやめの花を剪る夕べやがて夕立つわが誕生日なり


 莇散る冥府の終わり夢がまだ生きてゐるという傍証もなく


 夏の歌、雨に降られてなお激し子らの声する小規模保育


 雨あがり水鉄砲を乱射する男の子なるむごたらしさよ


 汎神の嘶く真午またいつかチーズケーキを食べたい気分


 導なき詩をしたためて死を祀る詩人の午後に沈む白魚


 浮子ひとつ漂う夏よわがための救いあらずや海ひとつ


 はつ恋をおもいいづれば夕ぐれのカリオンばかり耳をはなれず


 死ぬことをやめて愉悦にかまけたるわれの余生よだれも咎むな


 ひとりゐてあらゆる肖顔呼びかけるたわむれなどもいまは寂しく


 かなしみはみなと働くこともなく自我見つむるのみの朝顔


 神という妄想果てずみずからの魂しい捧ぐ母の割礼


 息を断つふりしていつもからかった女の子たちいまは老いたり


 非凡なるものあるならば救われて然るべきかな水差しをわる


 われもまた路傍の石に過ぎぬというおもいにからる湿度の高さ


 病める子のかげが待合室を過ぐ心療内科の午後の暗がり


 断りもあらぬ口笛谺する隧道越しの少年の貌


 黒電話したたる暑さ 公園の土鳩の一羽片足がない


 かのひとのおもざし遠くかさぶたの残る疵痕さまよえるかな 


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