みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

夢譚のなかで

 

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 戦つづく骸のなかのおもいではピースサインのかく存るゆうべ


 流れては消ゆるものこそ尊しと河辺の花をちぎって游ぶ


 いまさらにおもいでなどと呼ぶ刹那 冷凍庫に隠したるかな


 彼方より流れ星かな一筋のなみだのようなきらめきありぬ


 ぼくがまだ生きてゐるという仮定法 用法知らず筆写するのみ


 ペン軸の軸が回転する夜半 大きな嘘を吐く鳥がゐる


 酸模の茎を齧って少年の夏の真昼の憧憬おもう


 いくつかの片恋おもう夏がまた始まろうとするわが人生よ


 舟を漕ぐ みどりいろなる水の上あらたな風がうろを敲いた


 茄子肥ゆる 季節のときよ一瞬の光りのなかで遊ぶ子供ら


 橘樹の萌ゆる木立よ 回答はあらずやわれが死ぬるときまで


 あやめ散る 言葉以前のおもいなど忘れゆくのか神罰として


 解かれし靴紐ありぬ黄昏の素足の痕を追いかけてゆく


 眠る犬 かぞえきれないさびしさを抱えていまだ夢が苛む


 木の幹がひとの顔して現るる日曜地獄の暗転のなか


 わがための光りあらずやトーストの焦げ目ばかりがつづく朝どき


 悲願ならずブラックバード再来す いまは死にたくないというのに


 夢遙か地平のなかに埋もれる ぼくが不在であるという論証


 ボギーすら悪夢の譬喩か キネマにてぼくが殺されてしまうのか


 さらば映画よさらば映画よ いままさに御囃子が聞える


 炎天の少年ひとり笛を吹く祭囃子が近づくなかで


 そして浸透するなかでだれかのなまえ忘れてしまった


 われはまだ侍女すらおらず一切の過去に赦されない身分


 きみがいまきみのふりして立ち止まる鏡地獄の閂のまえ


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