みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

バス停通り

 

 年老いた窓たちはどうにも言葉づかいがわるい 暮れても明けても景色を面罵するかれらにできることがない ヘタな文章のようだ、不運な女のようだ、とてもとてもしてやれることはない 男はじぶんが窓になろうとして、すべての窓を叩き毀した それでもじぶんが窓になれないことに悲しい心を充たそうとする 麦畑 水路へとつづく小径でかれが見喪ったものを 隣人の技師が発見する なにもかも透きとおったすえに流れ去った窓の景色を 断面の涼しいバス停通りの朝の歌 おお、なんとういうところに でも、男はなにも憶えてない きのうは映画を観た ホモ・サピエンスの涙 切り取られた光景の断片が 鉱物のように羅列された映画を観た 求められない対話のなかを雨が記憶のように降るなかで、かれは帰りのバスに乗った かれは演技しながら坐ってた じぶんがただの男であるという演技をしながら そしてバスを降りて室にもどる 窓はもはやなにもいわなかった ただガラスという物質でしかなく、かれはそこに映るじぶんを見、恍惚を感じながら いまもまだ演技のなかにいる。