みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

多くのひとは

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 多くのひとは雲のなかで目醒めたりはしない
 水のなかで熱くなったりもしない
 そして炎のなかで溺れたりもしない
 したたかな晩夏の光りのなかで芽吹き、
 やはりしたたかな初秋の光りのなかで凋れるものはなに?
 もはや犯意を失った群小詩人のなかにあって、
 わたしはひとり、草むらを歩く
 だれもわたしのことを知らないということの不安を
 だれもきみのことを知らないという事実で埋めようとしてる
 質問?──それもいいだろうけど、
 けっきょくは表面をなぞっただけで、
 なにもわかり合えないということ
 たったそれだけの事実がぼくに詩を書かせる
 箒に寄りそう木枯らしみたいな、つつましい事実よ、
 眠れ、眠れ、眠れよ
 きみたちのために寝台は空けておいたから
 もう大丈夫、大丈夫だといいかけてやめたのはなぜ?
 きっとふりまわした花みたいになにもかもが奪われて死ぬ
 だからか、外套を投げてビルの屋上を歩きたい
 多くのひとは雲のなかで目醒めたりはしない
 水のなかで熱くなったりもしない
 そして炎のなかで溺れたりもしない
 だのにぼくはそうでもしなければもはや、
 生きるのもむつかしい
 きょうで港湾労働も終わった、
 しばらくはだれとも会わないでいるだろう
 アパートの床に素足を立てて、
 やがてわたしは雲のなかで目醒める
 水のなかで熱くなる
 炎のなかで溺れる
 そうともさ 
 きみは?