みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

それがなんであれ

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 それがなんであれ、いまは掴むしかない
 あした港湾業務が終わっておれはたったひとりの職探し
 なにものかになれるのなら、もうなんだっていいとおもったりする
 でもいまさらたどり着けるのは中古るの一脚
 薄汚れた席のうえでぼくは沈黙するんだ、
 きっと、そうなんだ
 それでもキンタンよりはマシだろう
 バナナの凾をひたすら降ろして、
 ビニールを切る
 パレットに3段3段2段で乗せる
 腕も足もつらくなって
 終いにはなにも考えられなくなる
 もうそんな仕事はいやなんだ
 おれが求める仕事は医薬品の倉庫、
 空調の効いた室できれいな凾を扱い、
 バーコードを貼ってレーンに流すことだ
 でも、そんな仕事はこの町にはあまりない
 どれほどのことだろう?
 なにものかになれるっていうことは
 まさか豚の皿を高くかかげて、
 バレエに興じることではなかろう
 少なくともおれが望んでるものじゃない
 おれは小説家になりたかった
 画家になりたかった
 写真家にも、
 SSWにも、
 ぜんぶがぜんぶ半端なまま終わり、
 やがておれよりも遅れてきた青年たちが、
 それらをすんなり手に入れていく
 おそらくおれはずっと、
 冴えない文学の玉袋を抱えて、
 うぬぼれとともに老いていくんだ
 浴室のボイラーが故障して
 水を浴びた
 隣室には業者たちが入り、
 かつての入居者の後始末をしてる
 激しい雨がいつのまにかやんだ
 それがなんであれ、いまは掴むしかない
 おれはおれの本棚から、いままで読まなかった本を掴み、
 それを種本にして生きていこう、とにかくいまはと、おもってる