去年の夏、ぼくは酔いどれながら電車とバスで、
キタロッコー台までいった
それから昔かよった床屋で死んだ女将さんについて話した
かの女はもうずっとむかしに列車事故で死んでしまい、
あのころは息子である、いまの主人がテレビにでることがしばしばあった
ぼくは憶えてるかぎりを話した
それから今度は小学校を訪ねた
そしてぼくのきらいだった教師が数年まえに死んだのを知った
それからぼくは学校の裏手のせまい路次を歩き、
インターフォンを押した
声の主はかの女の祖母だった、
あやまりたいことがある──とぼくはいった
あの子はいません──と声はいった
そして切られた
ぼくは熱くなって、
呶鳴った
芝居がかったたわごとを嘔いた
いまとなってはそれがなにを意味してたのかもわからない
やがて近所の男が苦情をいった
うるさい!──ぼくはやり返した
それもいまとなっては忘れてしまってる
警官たちは早かった
ぼくはそのまま連行され、
ニシノミヤ署へいった
ながい時間、尋問されたわけじゃない
家に送ってもらうまでに時間がかかったんだ
ぼくはストーカーといわれ、
今後いっさいキタロッコー台にはいかないといわされた
ぼくはどうしてかの女の家になんかいってしまったんだろう?
もはや、なにもかも終わってるというのに
ぼくは警官にいった、
かの女にいじめられてたと、
そして謝ってほしかったと
これは事実じゃない
ぼくがかの女に謝りたかったんだ
ぼくがかの女を好きだったということを
けっきょく、そんなものは愛じゃない、恋ですらもない
せめて、ぼくのなかの水路をすっかり変えてしまうような夜が来ればいいのに