ぼくのギターはタグっていうフランスのメーカーのやつ
そのメーカーでもいちばん安いギター
¥25000のやつを
¥19000で買ったのは去る年の11月、
温かい月曜日のこと、
ピックガードはないけど明るい木目がうつくしいギター
ぼくはデモのレコーディングのためにそのギターを買ったのだ
ぼくははじめてじぶんでアコースティックギターを買ったのだ
それがどんなに愉しいものか、きみはおそらく知らない
いつまでも左足首が痛む、──たぶん捻挫
デモ・トラックはけっきょく、あらゆるオーディションに落ちて、
いまは物入れのなかだ、けっきょくぼくに好機はないってこと
それでもぼくは夕暮れになるとギターを弾く
リズム感がわるい、
バッキングと歌を同期できてない、
どうしようもなく下手だ
16歳からやってるのに巧くならないということ
やがて手がとまる、
疲れた、
もう疲れたんだ、
たったいま4年まえにつくった歌を編曲してた
間奏がうまくいかない、〆の部分に持ってけない
どうしたものか、ためいきを嘔いて、
ちいさな室のなかであがいてる、
どうやらいきづまってしまったらしい
地下鉄に乗って、
映画を返しにいく、
フェリーニの「女の都」だ、
この1週間、ぼくはなにひとつできず、
過ごしてしまった
それらがどうしたって?
いいや、なにも
ただぼくはギターを習いにいきたい