みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

なまえ

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 名づけられたものにできるのはなまえを奪うことだけ
 名づけられなかったものにできるのはなまえを与えることだけ
 他者のなまえを上着にしてぼくが町を歩くのは
 遠い6月の朝から10月のたそがれ
 なにがただしく、
 なにがまちがいなのかもわからないなかで
 ぼくはぼくの徳義を持とうとしてる
 いま傘がひらいた
 そこに存るということが瞬く
 だれかが生きながら歩いてるってだけで、
 なんだかめまいがしそうだ
 それほどにぼくは他者に飢えているから
 左の手には灌木、
 右の手には山麓バイパスが見える
 ほんとうにぼくはこの土地に帰ってきたんだ
 やがて上着を棄てて、ぼくはだれかに着せてやる
 みじかい沈黙のなかで埃っぽい声が礼をいう
 そしてぼくの肉体が驟雨する秋の日のあしたまで
 ゆっくりと立ちあがりはじめたひとびとを
 逆走してやまない一箇の、
 たしかでうつろな流儀とともに
 走りだす
 暗渠よ
 名づけられたものにできるのはなまえを奪うことだけ
 名づけられなかったものにできるのはなまえを与えることだけ
 他者のなまえを上着にしてぼくが町を歩くのは
 かれらかの女らとふたたび会うためだ
 でも過古にむかって歩くことはできない
 過古にむかって思考してもなにもならない
 じぶんだけが取り残され、
 なにもかも奪われたという誤解のなかで立ちすくみ、
 それでもやがて生きるしかないという曲解のなかで歩く
 どうやらぼくはやらかしてしまったようだ
 もはやだれのなかにもぼくがいないという、たんなる事実のゆくところ、
 死ぬべきだという解釈をいまでも抱えては、甘ったれているだけなんだよ