みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

花(即興詩)

 

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 をとこは山百合、をんなは雛菊、そして汲みあげられた水根の表皮に現れたおまえこそ、おれのもっとも欲しいもの かりそめの棲み家にからたちの花 すべての花束が色を失って砕かれる おまえの心を砕くように砕く 夜もすがら石に触れながらも、石になりたいとはおもわない 寿ぎを喪ったみなみなの時代の窓よ、マーラー、ラードの塊りが燃えあがる23時のノルウェームンクたちが、立ち枯れながらガラスのなかを突っ切り、切り立った丘に蟹のように群れをなす 為す術もなく茄子のように雲丹ははらわたを描きだされ、さりともうつくしい女のように膠で接合され、レキシントンの幽霊とともにニードルドルフ地区の蓄膿症に悩まされる 水禽が秋の畔でデンティズムを夢見るなか、渉れかゆかん数千のおくりびとが柩のなかでげっぷをしたら、もはやたぶん、おまえのなかの色彩構成が混色を起こし、知らないひとびとがいっせいに眼をやる 巡回ルート、トールキンの物語、タリスマンの消費期限と、おれの黒帽子よ、ぬぐい去れ おれはおまえとヤリたいだけなんだ 死の襞にあおられ、またしても手を 右手を砕かれる なにも奪えないことの疼きがレゾナンスのかかったディレイとリバーブとを組み拉く。柳のかげに立っておれはひとり、おまえを呼びつづける。

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 おれの毒、おれの孤り、おれの鍋、おれの雛菊 どうやら現実が効いてきたようだな エレベータ・ホールでおれは待ってた だれかがおれを支配してくれるのを やがてだれかが降りてきた まったくすばらしい画角だ まさに4Kウルトラの女 わぎりにされたボーイングが離陸していくみたいな快楽がおれのなかを突き抜ける ほら、秩序と服従のなめらかさが敷物の色を変え、かたちを変え、みるみる昇ってゆくよ どうやらおれは喪ったらしい 右手の毀れたボクサーが、そのかたわをために勇ましく、1行の詩句を見せて、ペニーアーケードに降臨する だって右手は攻撃の比喩だから なぜかって? おれに訊くな なしくずしの死を惜しんではならないのはきっと識別コードがF-4201175Bだからで、親指のさきに埋め込まれた中国製のチップから精液が迸ってやまないなか、泣かないおまえと冷房装置の悪夢を愉しみながら、ゆっくりと沈没する第3世界の一家団欒。

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 官邸から密偵が使わされる そいつはおれの親友だった われた鏡のなかからおれは探しだすんだ 草のようなひと 花のようなひと そっと手を握るように 溢れだす光り 秋の光り 午前11時47分28秒にいつも訪れるひとのようなもの だれかがおれを呼ぶ おれのなまえを呼ぶ 声はわかっても顔がわからない こんな感じなのか、失貌症ってやつは 密偵を乗せた車は熊内町5丁目で停まった かれは降りて右折、さらに高架下を左折しておまえのいる病棟をめざす だめだ、――蘇る!――密偵はおまえの病室に入る 花のような石をたずさえてライラックの匂いのする、その石のなまえはパンケーキ キーオのいないところで画策された案件を老人たちが眺め、コップのなかの犀に物語る あなたはやさしい小父さん、そしてわるい執務者 地平線の起源をおれに教えた姉さんをなぜに殺した? キキ・ララのように政治はやわくなって、パッケージ化された商品が岩礁を成して聳えるのは贋ものを隠すため、そしておれを惑星戦争から守るため 足の長い女が通路のきわで店員に示すのは密偵への合図 ニック・ケイヴ、あるいは不機嫌な天使たちとともにして神戸北ICでの事故火災を眺めた。

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 その瑕の痛みはすなわち花 拳のなかにひろがる花々の反逆者、そしてニュー・オーダーの新譜 壁が室のなかを浸食する おれは追いつめられたんだ 密偵はやくめを果たし、高速バスに乗った 台湾料理 肉色のみずみずしい肥沃な土地で おまえは休息する おまえはおれのそとで蘇ってしまった もはや、おれのなかに帰っては来ないことを寿ぎ、そして瞑目する おもったよりも水は熱い 水上の音楽が燃えあがって拡がるとき、展ばした手のさきが、どうしても内奥にとどかないからといって花壜に金木犀を装填するのはなぜか おれは遊底を引く そして男たち、女たち、老人たち、そして半額シールの貼られたすべての家具を撃ち殺す すごい花薬力だ 輝く断片となったひとびとと秋霖のなかで立ち尽くす かつてのおれを洗い流す雨のなかで、ふいにおれは懐いだす 過ぎ去った夏のなかで兵士たちが斃れるさまを なまえを棄てたおれはひらめく花びらのなかで、いま呼吸をし、胸筋を気づかう 薄い胸板の汗を拭って、けもののように呻く 亡命先などない おれは水を呑みながら訪問者を待つ 天国のカナリー・ワーフからの在監者たちを待ちわびる でも、だれも来やしない それはもうわかてっる 花はみな凋れ 草地に横たわる、17時01分36秒 下校する子供たちの声 カソリック教会の鐘の音 たぶんバター・トーストをレンジにかけるのちがって、子供を瞞すのはたやすいことじゃないな。
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後記;

最近ずっと小説を書いていたから、詩の書き方を忘れてしまった。だからけっきょく散文詩にしかならなかった。