みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

青林檎

 

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 水無月のつるべ落としを眺めやる一羽の鳥のような憐れみ


 地の糧もなくて窮するひとりのみ草掻き分けて見知らぬ土地へ


 やがて知る花のなまえを葬ればとりわけ夜が明るくなりぬ


 ふりむきざまにきみをなぐさむ窓さえも光り失う午後の憧憬


 たとえれば葡萄の果肉 季節とはわれを分割する鏡


 星幾多あればわたしを解き放つ光りがありぬ幾億光年


 魂しいの襞に隠れてさまざまの宇宙を駈ける銀の馬たち


 文月に生まれしわれは夏ぎらい 水に還らぬおもいの幾多

 
 見も知らぬ手紙のなかに空洞のうろがひろがる時雨のなかで


 夏来たり雲に合図を送りたり少女のひとり片手をあぐる


 文月に眠れる女眺めやる詞のすべて通り過ぐとき


 詞書を書くよるべもあらずしみじみと水をかぶりし射光のはざま


 あすをも知らず生きるべきかな蜜蠟を靴に塗りたり日曜の夜


 夏衣 天に融けゆく一瞬を見届けて猶暑さひかず 


 水を撒く芝のおもてを走り去る禽獣わずかふるえてゐたり


 青蘆のひろがる真昼この世すら棲家にならぬものたちもゐて


 かすむ陽よ葎のなかに逃れては取り残さるるぼくの姿よ


 青みどろひろがる池が迫り来る夢譚のなかのわれの足許


 未明にてかりんの花が咲き誇る 人間たちの知らない場所で


 かぜも死す 街区のなかに落とされてひとり暑さに汗を飛ばした


 夏期手当なくてひとりの午後を過ぐ賃貸更新料も払えず


 青林檎転がる土地よきみに似た少女がいまだ帰らぬ道


 夏色の女のかげもほころびて立ち待ち月のおもかげならず


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