みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

世界が夏になったとき

 

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 みずからの両手を捧ぐあえかなる南空のむこうガラスがわれる


 夏跨ぐ句跨ぎ暑し森閑のなかを歩みて望む才覚
 

 ひとがみな偉くおもえて室に立つ水一杯のコップを握る


 彼方より星降る夜よバス停に天使のひとり堕落してゐる


 夏しぐれ掴みそこねた手のひらを求めてありぬ裏窓人生


 熱病魘されながら夢のなか玉蜀黍の皮を剥きたり


 だれぞやのマスク落ちたり疫病の時代の愛の餞であれ


 天才の愛とはなんぞ光差す雲の切れめに虹が現る


 ひとつぶの葡萄の種子を拾いたる熱波に曝す少年の指


 消えかかるおもいの幾多踏み切りに停止ボタンが設置されたり


 寂滅の匂いに充ちて室にただ玉葱ひとつ転がしてゐる


 来るべき明日など望む焼き林檎皿にもりつつ夜が来たれり


 入り江にて鳩が飛ぶなり失寵をおもいわずらうこともなかりき


 種子芽吹く季節のときよ手負いなる小鳩の一羽いま眠るなり


 愛にさえ渇く砂漠よわがうちの花が凋れてゆくは週末


 夏の声 少年たちが駈けぬけたガス・スタンドのうらの亡霊


 スペルマもむなしくなりぬ夜のこと牡蠣のごとくに黙る海鳴り


 夏草やものみなやがて忘れ去るみどりいろしたぼくのTシャツ 


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