*
紫陽花暗し夏のまえぶれおれの手が汚れながらに握る花びら
声あればふりむくときよ顔がまたちがったように見えるゆうぐれ
光りあれ 取り残された路地裏でつぎの出会いを待つは朝どき
しぐれゆく街の時間よまざまざとひとの内部を照らす雨粒
凋れゆく花の幾多もうつくしく午後の愁いをわずかに棄てる
われらひとしくむなしかれひとつの愛も受けずにゐたり
流れとは時間の比喩よさみしさが海辺の砂を浚う愛しさ
かすかなる木魂のなかに森がある 耳を澄まして斧に手をやる
だれもいない遊園地にて遠ざかるおもいですべてわれにあらずや
この夜がぼくのものではないならばいまやすべてを闇に捧げる
夜ぴって働く虫よいくつかの断章われは書くに至らず
心ならずきみの眸を見つめてもなにもできない教室の窓
みながみなわれを拒んでみずいろの水のなかにて消ゆるゆうやみ
それはまだ充たされてゐる水槽かそれともぼくの過ちなのか
終わる雨季──あるいはぼくよ刹那にて多くのものを傷つけて来た
対話する疫病時代の愛にとり、やがてぼくらが失うものを
雲流る地平よ愛に渇きおり両手をかざすさみしさなどと
*