みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

大人になる予感

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 紫陽花暗し夏のまえぶれおれの手が汚れながらに握る花びら


 声あればふりむくときよ顔がまたちがったように見えるゆうぐれ


 光りあれ 取り残された路地裏でつぎの出会いを待つは朝どき


 しぐれゆく街の時間よまざまざとひとの内部を照らす雨粒


 凋れゆく花の幾多もうつくしく午後の愁いをわずかに棄てる


 われらひとしくむなしかれひとつの愛も受けずにゐたり


 流れとは時間の比喩よさみしさが海辺の砂を浚う愛しさ


 かすかなる木魂のなかに森がある 耳を澄まして斧に手をやる


 だれもいない遊園地にて遠ざかるおもいですべてわれにあらずや


 この夜がぼくのものではないならばいまやすべてを闇に捧げる


 夜ぴって働く虫よいくつかの断章われは書くに至らず


 心ならずきみの眸を見つめてもなにもできない教室の窓


 みながみなわれを拒んでみずいろの水のなかにて消ゆるゆうやみ


 それはまだ充たされてゐる水槽かそれともぼくの過ちなのか


 終わる雨季──あるいはぼくよ刹那にて多くのものを傷つけて来た


 対話する疫病時代の愛にとり、やがてぼくらが失うものを


 雲流る地平よ愛に渇きおり両手をかざすさみしさなどと


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